8.負けなしの将軍クルセン
砦の中を堂々と歩く足音。おそらく副将軍のチャールズでしょう。
彼は負けを経験していませんからね。まぁ、自信があるのは良いことです。しかし、驕るのはいけませんよ。
「クルセン様! 入室いたします!」
「どうぞ」
促すと、少しの間をおいて男性が入ってきました。自信を表すように顎を上げた兵士チャールズは、獅子の顔に笑みを張り付けた状態で報告してきます。
「本日も異常はございません。割り出した潜伏場所も、どうやら真のようであります」
「それはよかったです。引き続きお願いします」
「ハ!」
大きな声を出したチャールズがいなくなり、私は椅子に背を預けました。
彼の鬣は黒っぽく、成熟しているのは見た目的に分かるのですが、その絶対の自信から稚拙な行動をとることもあります。
私は望遠鏡と剣を持って部屋を出ました。
優秀であるが故の傲慢による見過ごしがないとも限りません。信用はしてますが、まだ信頼できません。
数人の兵士と擦れ違いながら、砦の屋上に出ました。
マレットス側の方を望遠鏡で覗いてみます。眉毛の隙間を通して見てみれば、対象の本性、正体が分かるのです。
おや? 誰かが走ってきていますね。
「弓兵、魔法兵、敵が来ていますよ」
「ハ!」
「狙い撃ちしてみせましょう」
五人の兵が敵を狙撃し始める。しかし、敵は躱した。
「ム?」
速度はあっても距離もあるため、避けられるのは仕方ないか。敵はぐんぐんと近づいてきます。
「ム?」
当たらない。こちらの攻撃が全く当たりません。私とて伝説級下位の戦士です。この矢と魔法の雨を躱すなど、造作もありません。
そうなると、敵も同様の力を有していることになります。上級の時点でできるとは思いますが、私の勘は言っています。あれは私よりも強い。
「このまま攻撃を続けなさい」
「ハ!」
私は部下に命じながら階段を下ります。
本能の警鐘に従って、もうここを捨てて逃げたいところですが、これでも私は負けなしの将軍。それなりのプライドはあります。
私は無駄にデカい男性を睨みます。
「チャールズ、敵です。迎え撃つ準備を」
「え!? は、はい!」
一瞬戸惑いながらも行動を始めました。本当に優秀な方です。
私は、いや、俺は覚悟を決めた。もう皮を被るのもめんどくせぇ!
逃げるぜ! 俺は!
「うわぁ~~~~!?」
悲鳴が聞こえた。もう時間がない。
俺はガンドス側へと、三階から飛び降り走ろうとする。
「よぉ、どこに行くんだ?」
声が届いた。弾かれるように顔を上げると、目の前には蒼髪をした女。服を見れば分かる。マレットス側の戦士だ。
「分かるぜ。逃走したくなるよな。私の前に現れる獣も人もいつもそうさ。私が同じ立場だったら逃げねぇけどな」
「な、んだと!」
「いつもなら逃がしても気にしねぇが、テメェは駄目だ。テメェは砦の大将だろ? 逃がさねぇよ?」
「ほ、他の奴等は?」
「殺したさ、もちろん」
「あの一瞬で、か?」
「今も殺しているぜ?」
振り返りたくなった。
しかし、駄目だ。目線を切ったら死ぬ。
「正解だ。視界内に収めていないと死ぬ。その通りだ。だからお前は死ぬ」
言っている意味が解らない。しかし、すぐに分かった。
自然と俺の瞼が落ちていく。これは瞬き。マズイ。世界が消えていく。もう間に合わない。
女の口角が上がる。
女の背から巨大な翼や肩からマントが出現してきた。
あぁ、それが正体か?
声は出なかった。瞬きが始まる。後ろに倒れていく。腕を振り上げる。何のためか分からない。完全な本能だ。
しかし、残念。それらの行動は何一つ功を奏すことはなかった。
再び瞼が開くことはなく、ただ頭が宙を舞う感覚だけ。
…………………………………………………………………………………あぁ、終わる。




