6.王都へ行かないケイ
「おい!」
エルが僕の肩を掴んで振り向かせる。
「何だい、エル」
「お前、血が出てんじゃねぇか! 死ぬぞ! 何が引き際を弁えている、だ! 早く休め!」
エルは僕の体を持ち上げ、座席に無理矢理寝かせてきた。
「でもこのままじゃ」
「でもも何もあるか! 私はお前が大事なんだ! こんなとこで失ってたまるかよ!」
何だよ、エル。キュンとしちゃうじゃねぇか。
「私が休むとエルの負担が増えちゃうよ」
「戦いに関して言ってんなら、いくら増えても構わねぇよ」
僕は目を閉じ、瞼の上に濡らした布を置いた。
「10分だ。10分経ったら起こしてくれ」
「分かった」
しばらく経つと、エルが起こしてくれた。本当に10分。きっかり10分。
大丈夫。回復している。
大麻が切れてしまっているが、再使用はしない。もっと自分の体に耳を傾けよう。
ドゴドゴと足音を鳴らす馬が、一つ嘶いた。僕もエルも顔を上げる。
外だ。外の光が見えてきた。
「おぉ、迷宮を出たな」
「うん」
「でも、ここは国のどこだ?」
「マレットス国ルーガー領北部、迷宮名ラスエンティス」
「前線も王都も距離が同じくらいか?」
「そうだね。王都に行ってウル君と話しているより、前線に直接行って直接指揮した方が早いしね」
馬が洞窟から完全に出る。僕は手綱を引き、一度馬を止めた。
「どうした? 何かあったか?」
「ここまでがこの馬車の契約さ。ここで降りるよ」
「あぁ、そういう事か」
二人で馬車を下りる。馬の頬を撫でてやると、スザトリーブラストは迷宮に帰っていった。
「直近の作戦、目標と言い換えようか」
「ふむ」
「そのために砦を奪い返す」
「どこに行けばいい?」
僕は地図を広げてエルに見せる。そしてペンを取り出し、一か所に丸を付けた。
「そこは?」
「ここが今、私達がいる場所」
「ラスエンティスか」
「そう」
僕は地図にペンを走らせ、一本の線を引く。
「これは?」
「前線」
「ルーガー領が少し削れているな」
「うん。アブストリー・ルーガーが何とか侵略を遅らせている感じ。止めることはできていないんだ」
「成る程」
僕はペンでもう一つの丸を付ける。そこが作戦の場所。すでに敵の地となってしまった場所。
「そこか?」
「そう。エル、僕は前線に行くことができない。天幕にいた方が指示しやすいからだ。だから一人で行って戦ってくれ」
「当たり前だ。もとよりそのつもりだったしな。指示はケイが出してくれるんだろ?」
「伝達の神獣との契約はまだ有効だからね」
「いつまでが契約期間だ」
「レ・ミューを討つまで」
「ガンドス国のアイツか」
エルは自身の顎を擦りながら顔を思い浮かべる。エル。僕はあえて言わないが、その表情、雲がかっているな? 何も思い浮かべてねぇだろ。
「よし、じゃあ行こうか」
「うん」
僕はエルとグータッチする。そしてすぐ後、エルは走り出した。地図で丸された場所、キャプリシア砦を目指して。




