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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
8.レ・ミュー
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5.馬車で移動するケイ

 カタンと床が揺れる。それに合わせてインクが跳ねる。黒の線2本で消し、すぐに続きを書き始めた。


「気持ち悪くなるぞ」

「秘密兵器を使っているから大丈夫」

「大麻か。使いすぎるなよ、体壊すぜ」

「分かっているよ~~」


 二人の間に楽しげな雰囲気はない。目を合わせることすらしない。

 酔いに対応するために大麻を吸う。そもそもがハイの状態であれば気にしなくていい。

 今の僕は仕事中。今までのサボりを取り戻すように魔眼を酷使し、筆を走らせ届けている。


「な、なぁ。さっきから使役しているそのモンスターって」

「僕もよく分からないんだけど、フロイドが作ってくれたモンスターだよ。フロイドはこの世にいないモンスターは作れないらしいよ」

「さっきから手紙を運んでいる奴も、この馬車を引いている馬も、私は見たことねぇべ」

「僕もさ」


 筆を走らせる。もうかれこれ五時間。手首が痛くなってきた。


「この狐みたいなやつ何? マジで」

「デワジルテゥコンゴロ」

「デワ……何?」

「デワジルテゥコンゴロ。神話級中位。二つ名は伝達の神獣」

「ハッ!? こいつ私と同じランクなのかよ!? 戦争に連れていけねぇの?」

「そういう約束だから」


 手紙を宙に投げると、肩に炎を纏い、背中から角を生やした狐が口に銜えた。そのまま飛び、宙に消えた。


「え、消えたんだけど」

「もう届いているはずだよ」

「私達は運べねぇの?」

「生物は無理っぽいけど」

「いいアイデアだと思ったんだけどな」


 エルはただ座っているように見えて、準備運動をしている。吸血鬼特有の血流操術によって、すでに体は熱くなっていた。これでもういつでも前線へ行ける状態だ。


「なぁ、この馬も見たことねェけど、こいつもランク」

「こいつはスザトリーブラスト。北方に見られる馬だよ。伝説級中位で、二つ名は氷結の白馬」

「こいつも強ェのかよ。何か脳がバグるな」


 エルが氷結の白馬を見ながら額に手を当てて、座席に身を預ける。しかし、その体の大きさを見て、そんなこともあり得るか、と思い直した。


「エルはあんまり考えない方がいいよ」

「そうだな。私は頭を使うのは得意じゃねぇからな」


 エルは体を前に倒し、膝に腕を置いて血流操作に集中する。


 一つ、ガタンと馬車が揺れる。


 この馬車は揺れる回数も揺れる幅も小さい。技術力の高さが窺える。ポルクス家の技術力には劣るが、酔いをあまり感じなくてすんでいる。大麻のおかげでもあるのか?


「……いいのか?」

「何が?」

「ユーヤに告げずに出て来ちまったことだよ」


 僕の頭の中にユーヤの顔が思い浮かぶ。


「駄目だろうね。ユーヤ激怒確定さ」

「じゃあ何で」

「巻き込みたくなったからさ。まぁ、どう足掻いても……」


 しんみりとした雰囲気になっても、僕は魔眼を作動させ続ける。そろそろ目が痛くなってきた。魔力は大丈夫そうだな。いや、駄目だ。そろそろ酔ってきている。大麻で誤魔化しているだけの状態だ。


「何でそんなに」

「頑張っているかって? お国の為さ。この仕事だってそうだ。僕を拾ってくれた恩を返さないとね」

「……体壊すぞ」

「引き際は弁えているつもりさ」


 エルの見えないところで、僕の目から血が流れた。

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