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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
8.レ・ミュー
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3.二人の消えたユーヤ

「う、ん」


 自然と目が覚めた。最近、僕の布団の中にケイが入っていることがある。特に叱ることをしないためか、何度も入ってきている。

 とりあえず布団を捲る。ケイはいない。居ると少しどうしたらいいのか分からないからよかった。


 空はまだ闇に包まれている。

 東の空はまだ夜明けが始まっていない。日付は変わっているが、まだ朝とは呼べない。


 常日頃朝練のために早く起きているが今日はそれよりも格段に早い時間だ。


「……眠」


 欠伸をしながら呟く僕は、ゆっくりとベッドを下りる。

 星や月の明かりがあるとはいえ、手元すらよく見えない。ベッドまで光が届かないのだ。

 それ以外の光はない。誰も火を点けず、夜仕事も早仕事もしていない。


 寝間着を脱ぎ、冷たい夜気に身体を晒す。目を閉じて眠気を吹き飛ばそうとする。


 僕の強くなりたいという願いが現実味を帯び始めたのは約7か月前。エルフのクライネと逢ってからだ。

 いつもの運動着の長袖を着る。そのまま刃の潰れた剣を手に取り外に出た。

 今から朝食が用意されるまでの4時間を鍛錬に費やす。僕も作りたいのだが、最近はキッチンに立つことを許されない。不本意だから『してもらう』なんて言ってやらない。細やかな抵抗だ。

 畑の横を通り抜け、井戸の先、いつも僕が剣を振る場所だ。


「フゥー」


 細く息を吐く。曇るそれが天に溶けるのを見届けると、刃の潰れた剣を構えた。

 理想の自分を思い浮かべる。


 それは己。そして剣。


 強く、鋭く、研ぎ澄まされ、決して曲がらない信念。


 皆を守り、護り、衛る。


 僕が剣を振る理由。


 僕が剣を持つ理由。


 僕が剣となる理由。


 長剣を上段に構える。


 目を閉じて20秒。自分のことを考える。


 そして振る。


 この切っ先が僕を包む膜を薄く切ってくれる。膜が薄く一枚切られてなくなるたびに、皮が半枚向ける気がする。

 振り終わった体勢を解き、立ち上がる。寒さを感じる程汗が噴き出る。


 汗を落とすように頭を振り、長剣を構えなおす。


 また熟考する。自分の存在意義を、自分のやりたいことを、自分の利用とする姿を。


 考えて、考えて、考えて、考えて。


 そして、振る。


 理想とは程遠い一閃。

 振り終わりの体勢のまま、ブワリと汗が噴き出す。


 僕は布で汗を拭き、鍛錬を続ける。


 気付くと、すでに日が昇っていた。


「……もう朝か」


 僕は汗を拭くことなく陽を眺め、息を整える。まだまだ理想には程遠い。


「フゥー」


 布で首筋を抜き、上半身を脱ぐ。そして上半身を拭く。


「ユーヤ様。そろそろ朝御飯にいたしますので、ご準備を」

「ん? 分かった、ありがとう」


 僕は上半身にシャツを纏い、家の中へ入る。

 クライネは朝御飯を作り終えており、机の上に並べ始めた。

 アイネは女性らしからぬ座り方をし、口内がすべて見えてしまうほど大きく欠伸をしている。


「アイネ、下着が見えているよ」

「んお? おーおー、悪ぃ悪ぃ。ま、でも、ユーヤには役得か? 別にユーヤ相手なら見られても構わねぇけどな」

「アイネ様は誰にでも、でしょう?」

「違ェねェ!」


 アイネは胡坐をかく自身の膝を叩きながら、ガハハと笑う。その間も下着が見えている。だから、隠せよ。


「そういえば、ケイとエルはいないのか?」

「そういえば今日は見ておりませんね」

「まだ寝てんじゃね? 布団が恋しい季節だしな」


 クライネが手を拭きながら、僕のことを見る。


「呼びに行ってきますね」

「いや、僕が行くよ。二人を叩き起こしてくる」


 僕は家を出て、ケイとエルがいる家に行く。


 コンコン戸を叩く。


「ケイ? エル? 起きているか?」


 返事がない。まだ眠っているのか? 珍しい。少なくともケイはこの時間に起きているはずなのに。


「入るぞ~」


 僕は戸を開け、中に入る。


「……は?」


 中に二人はいなかった。僕は三秒ほど呆けて動き始めた。

 ベッドの下と布団の中を調べる。居ない。


 体ごと動かし、周りを見渡す。


 そこで、とある一点に目が留まった。


 手紙だ。昨日ケイに渡したやつだ。


 僕の野性の勘が働いた。この手紙に原因があるのでは? 

 僕は手紙をもって自宅まで戻った。僕に読めることを期待すんなよ!

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