2.伝達を受け取るケイ
「よろしくね~」
「はいよ~」
僕は元気いっぱいに腕を振る。御者は腕を振り返しながら馬を操った。
ガラガラと音を立てて馬車が去っていく。乗っているのは気を失った拳闘士ヴァスカンブル。未だにエルにもユーヤにも名を覚えられていない奴だ。可哀想に。
冬から春へと季節が移り替わろうとしているせいか、まだ太陽が姿を晒している。
今日も今日とて賑わいがユーヤ宅を満たしていた。本日の狩りを終えて結果を自慢する龍人。ご飯を待ち惚けている吸血鬼。メイド業に従事して日々成長し続けているエルフ。汗を流すために井戸前に屈み冷水を浴びる人間。多種多様な種族が放出する節操のない熱気が僕は好きだ。仕事しかしていなかった期間では味わえなかったものだ。
夕食の準備を着実に終わらせていく中、皆は自由に過ごしている。
アイネとエルはユーヤ宅の机の位置を動かし、それを挟んで座っている。二人は古びた木製の駒を指し合っていた。
ホンスクロ国伝統の戦略盤遊戯である『グンジョゴ』だ。
この盤遊戯は20×20のマス目の盤に駒を指し合って王を取るか、相手駒を10以下にした方の勝ちである。自分側20×5のマス内に全50駒を自由に並べてよく、全て使わなくともいいし、後で援軍として合流させてもいい。かなり自由度の高い遊戯だ。そのため思考能力が必要だ。
二人がやっているイメージが湧かない。戦略系の遊戯だぞ? 考えるのが苦手な脳筋二人がこれをやっているとは。
盤面を覗いてみる。あ、四龍だ。かなり初歩の反則しているけど、誰も指摘しないの?
「なぁ、ケイ」
「ん、助けないよ?」
「くそぉ」
エルが頭を抱えている。助けてあげないが、見ているのは面白い。こんな日常になるなんて思えなかったぁ。
200年前に感じていた、一人寂しく過ごす夜はもう久遠の彼方だ。今でも時折一人か?
まぁ、僕はもう独りじゃない。
僕はユーヤのベッドに腰かける。少しだけ休憩すると、無言で立ち上がり、クライネの元へ。
「ケイ様?」
「手伝うよ」
「ありがとうございます」
クライネが渡してきた食材を包丁で切って鍋に入れる。
鍋か。この時期の鍋料理は美味いんだよなぁ。味が染み染みの大根が至高。
「フフ」
「……ケイ様?」
「いや、済まない。味染み染みの大根のことを考えたら頬が緩んでしまったのさ」
クライネは何も言わず、すでに火にかけられている鍋の蓋を開ける。中からとてもいい匂いが、そして中には味染み染みの大根。
「え」
「用意しております」
「え、結婚する?」
「しませんよ。好きは好きだと思いますが、恋愛というより友愛としての好きですね」
「いや、分かっているよ。そんな真面目に言わなくていいよ」
「お、いい匂い」
髪の毛の濡れているユーヤが裏口から入ってこようとしていた。
「おい、ちゃんと頭拭け、風邪引くぞ」
僕はユーヤから布をひったくり、彼の頭に乗せ、ワシャワシャ拭いてやる。ユーヤは抵抗することなく受け入れる。
今の居場所は大きい。皆がいて、温かくて、満たされている。
「そう言えば、さっき人が来て手紙を渡していったぞ。エルとケイにだってよ」
「ふ~ん。分かった」
手紙を受け取り、見つめる。僕は目を細めた。あぁ、遂に来たか。
夕飯を食べたが、味を覚えていない。手紙の内容が脳を駆け巡っている。
そして、夕飯後、エルとともに部屋へ帰る。
「エル」
「ん?」
「……話があるんだ」
僕は手紙を見せながらエルに話しかける。このムードからシリアスであることを察したエルは、静かにベッドに座った。
「どうした」
「実は、ウル君が手紙を出してきたんだ」




