表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
8.レ・ミュー
92/145

1.ボコボコにされるヴァスカンブル

 バキッ!


「ブッ!?」


 詰まっていた鼻が潰れる。元に戻る時には血塊が噴き出し、血液が垂れ流れた。

 血液が止まると、鼻の通りがよくなっていた。

 鉄の臭いがする空気を肺いっぱいに溜め込み、足に力を入れる。時間が引き延ばされていく。今の俺様は風だ。


 ユーヤの顔面を殴ろうとする。俺様の拳は兄も認める破壊の拳だ。そのむかつく面を歪めてやる。

 ユーヤは外側へ回るように避ける。奴の左の掌底が顎下へ添えられた。


 掌底が上へ行くのに従って、俺様の体も上がっていく。そして、遂には俺様の体が宙に浮いた。

 バランスを取ろうと四肢をジタバタさせようとするが、その前に体を捻られた。


 ユーヤが身を屈めて、我が足元に体当たりを仕掛けてきたのだ。


 一度天を見ていた顔が地の方を見る。ユーヤの手を顎ではなく我が足を掴んでいた。そのまま体を回され、ユーヤの左手が我が顔面を掴む。


 俺様は察しがついた。このまま地面を掴む。


 意識をして背尻後頭部に力を込めた。

 衝撃が来たのは背中。叩きつけられたのは地面ではなく、奴の膝。タイミングをズラされた。


「ガッ!?」


 奴の膝で一度バウンド、更に押し込まれて地面に叩きつけられた。


「うらぁ!?」


 肺中の空気が吐き出される。

 体は空気を求めている。それでも肺は広がってくれない。

 逃れるように体を転がし、立ち上がる。空気が足らず、足が縺れてしまう。


 片方の鼻の穴を指で押さえ、思い切り息を吐く。また大量の血が出た。失血のせいで気絶しそうだ。

 裂けた額から滴る血が左目に入り、赤く染まる視界を乱暴に拭う。

 もうすでに何度地面に打ち倒されて転がったのか覚えていない。唇が切れたのか、口の中が切れたのか、鉄の味が多すぎる。


 痛みは感じない。


 痛みが強すぎて機能が鈍ってしまっている。しかも脳内分泌物質の効果も上乗せだ。


「もうそろそろ帰ったら?」


 俺様の気概に対し、ユーヤは称賛ではなく呆れでもって応じた。

 ユーヤは今でも砂埃がついていない。それどころか汗一つ掻かない涼しい顔。ふざけるな。

 ユーヤはそれ以上言わない。その目は哀れみ。心を折りに来ている。


 傷の疼く頭を振り、声も上げずに吶喊する。射程圏にユーヤが入った瞬間、拳を顎目掛けて振り上げた。

 ユーヤは何も言わずに木剣を突き出し、鳩尾を穿たれた。


 息が詰まりながら受け身を取り、転がって立ち上がる。


 俺様は強さを追い求める種族であるはずなのに、隔絶された実力差が存在している。

 攻撃を捌かれ、逆に防御の隙を穿たれ、幾度も地面に倒された。


 次の一撃が最後。体がそれを訴えている。次の攻撃で立ち上がれなくなるだろう。

 息を吸うだけで肺が痛む。息を吐くのも体が痛い。


 体中の力をかき集めて機を待つ。ユーヤの意識に、刹那の隙が生じるのを。その瞬間を。決して見逃さないために。

 炸裂する痛みの中、ユーヤの視線が俺様から切れるのを確認した。


「うらぁああああああっ!!」


 地を爆発させ、渾身の拳を繰り出す。


「獣」


 その一言を残し、ユーヤの姿が消えた。

 こういう時の相場は下だ。分かっているし、気配だってある。しかし、体は動かない。


「うら」


 ポツリと一言。それを残し、我が顎に木剣が叩き込まれ、意識が、消え……。


―――――――――――――


「ハッ!?」


 意識が目覚めると同時に体を起こした。

 ゴトゴトと地面が揺れている。ここはどこだ?


 辺りを見ると、この場所は馬車だった。


「御者。俺様はこの馬車に乗ってどんくらい経った?」

「そうですね。お客さんを乗せて三十分程度ですかね」

「そうか」


 俺様は少し不機嫌となりながら、横になった。

 どうすればあの野郎を倒せるんだ。


 それを考えながら、俺様は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ