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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
1.ミデリー・ランレイグ
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8.見つけ出されたユーヤ

 僕は今、自宅に向かって歩いている。行きと違うのは、後ろにエルフがいることだ。

 このエルフ、名前をクライネと言い、僕にお礼がしたくて付いてきているらしい。


 森を抜けると、クライネが少し振り返った。


「淋しいのか?」

「そうですね。私はこの森の中に産まれ、この森の中で育ってきました。この森を出るのはこれが初めてです」

「帰りたければ帰っていいんだぜ」

「……帰りません。まだ、お礼ができておりませんので」

「…………そうか」


 僕はその強い信念を受けて、後頭部を掻いて前を向いた。


「行くぞ」

「……はい」


 一応声はかける。一応僕に付いて行きたいと言っているし、一度僕は彼女を受け容れている。ここに置いていきたいと思っているわけではない。


 僕の後ろ三歩をエルフが歩く。こんなこと、誰が予想できただろうか。僕だってできていない。まぁ、エルフがどんな種族なのか、僕は詳しくないのだが。


 堂々と歩く。村まではあと一時間か。


 クライネは何も喋らない。正直何か話してほしい。この、絶妙に耐えられない空気をどうにかしてほしい。だが、僕には話のタネがないんだ。

 僕は口元をもごもごとさせながら、後ろに気を配る。

 頼む、何か話してくれ。


 そう思いながら、一時間が経過した。そう、一時間が経過したのだ。一時間が経過したということは、僕の家に着いてしまったということだ。


「……どうしましたか?」

「あ、あぁ、ここが僕の家だ」

「ここが」


 クライネが僕の家を見る。

 小さな小屋だ。小屋の時点で小さいはずなのに、さらに小さい。その小屋は草の蔓が巻き付いている。


「入らないのですか?」

「あぁ、入るよ。……この家を見て何も思わないのか?」

「……周りのお宅と較べると自然がたくさんありますね」

「あ、そう」


 ギギギと脂の足りないドアを開けて中に入る。中は狭く、人が二人生活するのが限界な広さだ。


「……荷物はどこに置きましょう」

「そこらへんに置けよ」


 僕はベッドの横に刃の潰した剣を立てかけてベッドに座る。

 クライネは背負っているリュックをどうすればいいのか分からず、立ち尽くしている。遂にクライネは物置場の前に前にリュックを置いた。

 クライネはそのまま床に座る。そのまま辺りを見渡す。


「確かに整頓されていますね」

「整理はしていないけどな」

「元から物が増えていなければそうですね」


 僕はベッドから腰を上げると、裏口から外に出る。


「何をなさるのです?」

「雑草抜き」


 僕はぞんざいに言い放ちながら、雑草を抜く。これはこれで焼いたり煮たりすると食べられるので、籠の中に溜めていった。


「この草達はどうするのですか?」

「食う。食料が今家にないから」

「行商人が来なかったのですか?」

「……買えなかったんだよ」


 クライネは僕の後ろで腕を組んだ。


「畑に撒く水はどうしているのですか?」

「さっき会った沢まで取りに行っている」

「遠くありません? この村には共同の井戸などはないのですか?」

「あるよ。でも僕が使うのは違う。僕はこの村の嫌われ者だからね。使わない方がいいんだよ」

「成る程」


 クライネが顎に触れながら、何かを考えている。


「私はこれでもかなりの魔法の遣い手です」

「ウン?」

「この庭に井戸を作りましょう」

「……ホントに?」


 僕がクライネの顔を見ると、彼女はただ一回頷いた。


「……お願い、出来る?」

「分かりました。では、まずは水魔法を使って水脈を探します」

「凄ぇ、魔法ってそんなことできんのか」


 僕はお尻を着けない体育座りの状態で、クライネを見守る。

 クライネは指先に水の珠を出現させながら、庭を歩いている。


 僕は手を振って小さな何かを払う。


「どうかされましたか?」

「いや、何か小さな何かが、何かがいた」

「何かが多いですね。虫ですか?」

「あれなんだけど」


 僕が指差す先をクライネも目で追う。


「よ」


 僕が素早く腕を振って、その小さな何かを捕まえた。


「何だ、これ」

「……カメラ、ですね」

「何? それ。カメラ?」

「遠くの場所のことを見ることができるものですね」

「そんなことができるものがあるのか。凄いな。で、これどうしよう」

「これの製作者はおそらくユチェ・ポルクスでしょう。一度春蟲祭(しゅんちゅうさい)で見たことがあります」


 春蟲祭(しゅんちゅうさい)って何だ? 僕は基本家の敷地内に籠っているため、自国のことでも知らない。


「へぇ、どんな奴なの?」

「ものづくりに命を懸けている方、ですかね。自身の体も改造しているという噂です。その性質上、いい素材や素体になりそうな者を好く傾向にあります。ヴォジュア・オールドウッドを倒せる実力だからこそ、狙われたのでしょう」

「潰していいの? このカメラ」

「よく分かりませんが、いいのでは?」


 ブツン――――――。





「カメラ壊されちゃったなぁ。名前を聞き出せなかったけど、どうするかなぁ? またカメラを飛ばすかなぁ」

「あんまりやっていると、相手にキレられるよ」

「でも、いい素材だからなぁ。絶対に会いたいからなぁ。一回死なない程度に壊されちゃうくらいなら許容できちゃいそう」

「心臓に悪いから止めてね」

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