7.ややこしくするエル
「まぁ、私は別にいいぞ」
「ありがとうございます」
髪にも瞳にもグラデーションのある少女が頭を下げていた。頭を下げてきたことに目を丸くする。
頭を下げると思っていなかった。
もしこの少女があの大迷宮そのものだとするならば、私もケイも抵抗を許されずに殺されているだろう。この大迷宮は一体何をしたいんだ?
瞬きをすると、自室に戻っていた。
「あれ、どうすんだ?」
私は用意していた酒をグラスに注ぐ。ワインの入ったグラスをケイに渡した。
ケイはグラスを受け取り、酒を一口含んだ。
「あの娘はおいおい僕から言っておくよ。大事にしない方がいいよ。何か地下倉庫的なものとでも言って誤魔化そう」
「何でだ?」
私はボウルに木の実を入れて出す。いわゆるおつまみである。
ケイは木の実を一気に三つ口に入れた。
「バレたら大問題だよ。国が動く。とっても面倒なことになるよ。迷宮なんて国の管理下に置く習慣があるんだから」
「確かに面倒そうだな」
私も三つ一気に木の実を口に入れる。口の中で果汁が溢れそうになった。ケイはこれを制したのか。
「じゃあ、あれはケイに任せることにするよ。私はこういうの苦手だからな。事務とか交渉とかな」
「知っている。誰かがそこを埋めてあげなきゃエルは暴走するからな」
「間違いない」
「僕は得意だから、任せておけ」
二人で同時に酒を口に含む。だんだんと体中にアルコールが回る。
ケイが私ではなく別のところを見ている。その視点の先にあるのはユーヤ宅の玄関より奥。ユーヤとアイネが戦っている場所か。
「何かあったのか?」
「何かはあるね。アイネの破壊劇画」
「大丈夫なのかよ、ユーヤは」
「死にはしないよ。まだ大丈夫さ。あ、駄目かも」
「おいおいおい。酒飲んでねぇで行くぞ」
妙な酔い方ができるから安酒が好きなのだが、その酔いが一気に吹っ飛んだ。
集中すると、アイネとクライネの言い合う声が聞こえてくる。そこに男の声が入ってきた。ユーヤのものではない。じゃあ、誰だ?
「何だが、外が騒がしいな」
「あぁ、来訪者だね。え~っと、あ~、あの子か。へぇ~、ここまで来たんだ」
「誰が来たんだ?」
私がドアを開けながらケイに聞く。ケイを促すように手を招く。
「どうだろ。見たら思い出すかもね」
「あ~、じゃあ後で確認するか。誰だろ」
焦らされてしまった。
「お~~? ユーヤの奴、刺さってんじゃん」
「オロロロロロロ、抜いてあげんと!」
ケイが小走りでユーヤに近づき、足元に屈む。
「ユーヤ、抜くぜ」
一声かけると、足を掴んで引き抜こうと力を入れた。ビクともしない。まぁ、だろうな。
「エル~~、助けて~~、私の筋力じゃ抜けないよ~~」
「だと思ったよ」
私はケイの上からユーヤの脚を掴んで引き抜いてやる。
「凄。顎貫通してんじゃん」
「口の中に土が入ってきちゃ」
「治してやるから、口の中の土を掻きだしておかないとな」
アイネとクライネの口論は続いている。強さへの頑固ちゃんとユーヤへの頑固ちゃんの言い合いだ。まだまだ続くだろう。
「お! エル、見つけたぜ!」
来訪者の声だ。
「ここにいるって聞いていたが、来てよかったぜ!」
「あ~~、それなんだけどよ」
ちょっと居心地が悪い。
「私はケイに言われたから必死に思い出そうとしたんだけどよ、済まん。全然分かんねぇんだ」
「ヘッ? ハッ……?」
「ほんまごめん」
「え、まさか」
「オメェ誰よ?」
「……ハァ!?」
赤銅色の肉体をした青年は、目を剥いて叫んだ。




