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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
7.ヴァスカンブル
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5.ダンジョンにやってきたエル

 懐かしい匂いが帰ってきた。それを感じ取り、目を覚ます。

 今は昼過ぎ、気温も落ち着き、下がり始める頃。


「ファ~」


 欠伸が出た。

 寝すぎたか。

 最近、アイネが戻ってきた。アイネはクライネとともに裁縫の特訓をしている。今もその時間だろう。


 今は私自身の家に誰もいない。乙女らしからぬ大口を開けて欠伸をしてしまう。


「帰ってきたみたいだし、迎えてやるか」


 私は掛布団を剥がし、ベッドから出て立ち上がる。もう一度伸びをして脱力。

 体がブルリと震えた。今は冬。まだまだ寒さの厳しさが続く頃。いまだに外は寒い。この家は木を組み合わせて粘土で固めただけの造りに過ぎないため、外の気温がダイレクトに伝わってくる。


 私はベッドの端に引っ掛けていた上着をひったくり、腕を通さずに乱雑に羽織る。

 寒いが面倒なため、サンダルタイプの靴を履いてドアに向かう。


 三歩で後悔した。寒。寒すぎる。やはり厳冬に膝丈の短パンは厳しかったか。

 身をブルリと震わせて背を丸め、ドアを開ける。


 風が少し入ってくる。寒。やっぱり寒ぃ。部屋の中が極寒となる前にドアを閉める。


「ようやっと帰ってきやがったな、ユーヤ!」


 アイネの轟声が聞こえてきた。轟声というか誼譟?


 ところで懐かしい匂いというのはやはりケイとユーヤだったようだ。そういえばケイはいつまでこの家にいるのだ?


「今まで放置していた分、きっちり相手してもらうからな!」


 こりゃ大変だ。三日三晩は相手させられるだろう。いくらユーヤでも壊れかねない。精神が。肉体はケイが何とかしてくれるしな。


「いいぜ! 返り討ちにしてやんよ!」


 どうやらユーヤはやる気のようだ。声音がすっきりしている。ミデリーの死がきっかけで追い詰められていたユーヤだが、そうか、乗り越えたのか。

 私もユーヤと手合わせしたいが、今はアイネに譲ろうじゃないか。


 少し歩いて玄関が見える位置目指して移動を始める。


「いけません、ユーヤ様。アイネ様はユーヤ様を壊す気です」

「いや、別に壊さねぇけど」

「いえ、壊します。この方は手加減を考えず、張り切って壊します」


 私もその光景が目に浮かぶ。アイネのこれまでの殺戮と破壊の歴史を思い出す。ユーヤは耐えられるだろうか。


「望むところ!」


 ユーヤはやる気満々だ。


「大迷宮で鍛えた僕の体を試してやる!」


 大迷宮に行っていたのか。そりゃ期待できる。

 ユーヤはアイネとともに広いところへ歩いていった。


「おい、ケイ。こっちゃ来い」

「あいあーい」


 ケイは嬉しそうにこちらにパタパタと小走りで来る。手には謎のシルバーバングル。


「何それ」

「ユーヤからの預かり物。ほら、壊れたら困るし」

「そりゃそうだな」


 私自身の家のドアを開けるために手を伸ばす。


「ユーヤが復活してくれてよかったよ~」

「お前が何かしてくれたんだろ? 私も頼んでたしな。そこは感謝しているぜ」

「まぁねぇ」

「ま、それはそれ」

「これはこれ? これ、僕死んだ?」


 ケイは相変わらず飄々としている。私が彼女に対して乱暴しないと分かっているからの態度なのだろう。


「心を読んでいたら分かるだろう? 叱るだけさ。肉体的なダメージは決して負わねぇさ」


 ケイは私のベッドに座ると、唇を尖らせながら、シルバーバングルの魔力宝石を撫で始めた。


 私はケイに背を向けて、物置からグラスを出し、酒を選ぶ。


 ケイが魔力宝石に魔力を流した。背中で感じる。私は魔力操作が得意である。そのため、他者のそれにも敏感なのだ。ケイは何をしているのだろうか。後で聞こう。

 そう思った時、ケイの魔力が消えた。


「え?」


 一瞬で振り返る。居ない。どこだ? どこだ!?

 汗がぶわぁと溢れ出てくる。焦りまくってしまうが、慌ててはいけない。慌ててしまうと大切なものを見落としてしまうからだ。

 ゆっくりとベッドに歩き、シーツを捲る。何もない。

 ベッドの下を見る。いない。


 他にどこか可能性はあるか? 私が背を向けていたあの時間で、どれだけ動ける? アイネならいざ知らず、あのケイが。

 凄く集中して部屋を探る。集中し過ぎて室内の気流さえ見えてくる。


 鼻血が出そうだ。


 瞬きをする。そして、目を開けた時には自室にいなかった。


「はへ?」


 冷たい風。ごつごつとした石肌。独特のプレッシャー。

 私は来たことないが、もしかして大迷宮か? 一応迷宮自体には行ったことがあるが、ここまでのプレッシャーを味わったことがない。迷宮よりも重い。


「エル~~、ごめんよ~~。急に消えちゃって~~~」

「あ、ケイッ! いや、いいんだけどさ。まぁ、無事そうだし。そっちの奴は?」


 ケイは少し豪華な椅子に腰かけており、可愛らしく上目遣いで謝罪してくる。

 そのケイの真正面には神が力を入れて直接創り給うたと言われても疑えない程美しい少女がちょこんと座っていた。暗系の虹色のグラデーションがついている短髪と同色の瞳。その瞳の中には星や羅針盤やらが湛えられている。


 本当に見覚えがない。何だ、この娘。


「この娘? この娘は大迷宮そのものだよ」

「は?」

「どうも、フロイドです」

「は?」

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