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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
7.ヴァスカンブル
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4.帰ってきたユーヤ

 口を曲げながら横を向き、馬車の座席に足も乗っけるケイ。少女は恥ずかしいのか、頬を掻いたり頭を掻いたり。

 もう五日もこの調子だ。僕もそうしたい。告白して以来、僕も恥ずかしい。


 ケイがこちらに指を差してくる。


「ところで、それ、何?」

「ん? 何、どれ?」

「その手首のやつ」


 僕は左の手首を見る。中央に宝石がつかまされているシルバーのバングル。大迷宮の底でフロイドにつけられたものだ。


「これがどうかしたのか?」

「いや、行きにつけてなかったから気になってさ」

「そりゃそうか」


 僕は左腕をケイの方を出して、バングルをケイに見せる。ケイは自身の指でかっ開かせ、バングルを観察。魔眼を使っているのだろうと予想できた。


「その通り。これは鑑定さ。物の持つ情報を読み解くことができるのさ」

「そんな魔眼も」


 凄いな。本当に勝てる気がしてこない。

 ケイは眼から指を外し、何度も瞬きする。目頭を押さえながら天を仰いだ。


「ケイ?」

「ちょっと待って、今整理している」


 おとなしく待つことにする。


「これの名前はシルバーバングル。何か工夫が施されているね」

「工夫?」

「うん。何か仕込まれているよ。格上の相手に対して攻撃力が上がる代物だね。龍の鱗を模した凸凹のある輪っか、四本指の龍の爪が魔力宝石を持っているんだ」

「……何一つ分からん」


 ケイの説明の名に一つが分からず、腕組みをして顔が険しくなってしまった。

 龍の鱗? 何か意味があるのか? 四本指にも意味が? というか、魔力宝石って何?


「あぁ、ごめん。龍は力の象徴なんだ。龍を模すことで力を借用するんだよ」

「ほう」

「爪に関しては本数によって格が変わるんだ。五本が最高。神様と同等の格を持っているんだ。四本だと各国の王様的な存在くらいの格とでも思ってくれ」

「そんな意味が」


 戦慄した僕はシルバーバングルを見つめる。これに意味が。付けられてから何も変化が起きていないため、全く実感がない。攻撃力が上がるのか。ケイなら上がるかな。


「僕相手じゃ上がらないんじゃない? ユーヤは神話級までランクがあって、僕は上級だから無理だと思うよ」

「いや、ランクはそうでも、僕はケイに勝ったことないよ」

「関係ないと思うけどなぁ。で、魔力宝石っていうのは、魔力を込めることができる宝石のことさ」

「何か魔力を家に着いたら込めてみろって言われた気がする」

「魔力宝石に魔力を流せば何かが起きるっぽいよ」

「……何かって?」


 ケイのことを見つめる。ケイはシルバーバングルを魔眼でじっと見つめている。


「……さぁ、ちょっと私にも分からないなァ。そこまでは見えないし、見えても大丈夫そうなら言わないし」

「おい。まぁ、魔眼も便利ってわけじゃないんだな」

「その通りさ」


 ケイは溜息を吐きながら座席に沈んだ。

 魔力を流せばいいと言われた気がするが、魔力とか扱えないんだよな。


「僕、魔力とかの基礎がないから意識して流せないよ?」

「教えてやるよ。まぁ僕よりもクライネの方が魔力に詳しいから、師事するなら彼女の方がいいけど」

「修得ってどれくらいかかるんだ?」

「センスだからなァ、それ。ちなみに僕は魔眼を使わなきゃいけないからね。早々に修得したよ。精度も高めたし」

「憧れしかない」


 僕は額に手を当てて、ケイを見る。それはもう目を真ん丸にして。

 ケイは凄いだろ、と言わんばかりにドヤ顔をし、胸を張っている。


「ま、時間が不安だっていうのなら、僕が魔力を流してやるよ。どうせ帰ったから慌ただしくなるしな」

「え?」


 何かケイが気になることを言った気がする。慌ただしくなるのか? なぜ?


「見える。見えるぞ。どうせ家に着いた途端詰められる未来が。ユーヤはアイネに連れて行かれる。見える。そういう未来が見える」

「おい、予言じゃないか」

「どんな手を尽くそうとしても、どんな弁を挟もうとしても、絶対この未来は変わらないよ。諦めるんだよね」

「マジかよ。まぁ、大迷宮帰りとはいえ、ここまで体を休めていられたんだ。付き合うか」

「顔が険しいなァ」


 眉間に皺を寄せながら答えたことがバレてしまった。ケイがニヤニヤしている。いや、別に隠そうとしていなかったが、指摘されると恥ずかしい。


「ま、その間は僕もエルにこってり絞られるだろうね。その後は僕とユーヤの二人でクライネの折檻だろうから、僕はそれをスルーしまくって魔力を流してあげよう」

「いや、聞けよ。まぁ、その時までにはこのバングルを渡しておくわ」

「おう、任しとき!」


 ケイは細い腕を見せつけ、力こぶを作った。それでも細い。というか、盛り上がりがない。大丈夫か?


「……憐れむなよ。そういう体質なんだ」

「ごめん」

「謝んな。悪いみたいになんだろ。この話に善悪はないのによ」


 ケイは僕の膝辺りをゲシゲシと蹴ってきた。


「お客さん、着いたよ」

「ありがとよ、御者さん。おつりは要らないぜ!」

「えぇ⁉」


 ケイは本来の三倍の値段を御者に払い、馬車を下りた。

 ケイは薄い胸をトントンと叩いて告げる。


「心だよ、心」


 御者は頭を下げ、馬を走らせた。


 ケイは馬車を見送ると、僕の前を横切り、家との間に立った。


「改めて、お帰り、ユーヤ」

「…………おう、ただいま」

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