3.告白するユーヤ
「愛しているぜ、ユーヤ」
「僕もだ、ケイ」
ケイが目を丸くする。未来が見えるのに、何に驚いているのだろうか。
「何が、”も”なの?」
ケイは子供のようにニヤニヤしながら、こちらを覗いてくる。ケイは心が読める。僕が何を考えているのか分かっているくせに、僕の口から言わせようと促してくる。
「僕も好きだ、ケイ」
「ムフン」
ケイがドヤ顔で薄い胸を張っていた。
おや、頬が赤いな。
「僕は大迷宮で死にかけたんだ。完膚なきまでに負けて、あと一歩で死ぬってところまでいったんだ」
「良く生きていたね」
「本当に。今でも夢みたいだ。でも、あの時、顔が浮かんだんだ。ケイの顔が」
「うん」
ケイが顔を俯けた。耳まで真っ赤だ。
「エルもアイネもクライネもアリスも浮かべた。僕にとって皆大切な人達だ」
「全員、ね」
「僕は気付いたんだ。僕は凄く独占欲が強いって。それに、愛情を欲しているんだ。飢えていると言ってもいい」
ケイは背を椅子に預け、深く溜息を吐いた。
「やっぱり過去?」
ケイの質問に対して、僕は理解と返答を考えるのに数秒黙り、小さく頷いた。
「僕は一人暮らしだ」
「うん」
「母さんは僕を産んだ後、それが原因で体力を使い果たしたみたいでさ、そのまま衰弱死しちまったんだ。早くに失くしてしまったがために、僕は母さんのことを知らない」
「僕もさ。もう二百年も前になるかな。母さんを亡くして、ほとんど思い出も掠れてしまったよ」
「淋しい?」
「この件だけで言えばね。総合的に視れば、それ以上の楽しい思い出があるという証明さ。よかったというつもりはないけど、淋しいというわけじゃないよ」
「そうなんだ」
やはりケイは凄い。人生の楽しみ方を知っているのだろう。暗いままで済ませることをしない。僕もこういう生き方をしたいが、なかなかできない。
僕は直情的だからな。
「何事も経験さ」
ケイは手をヒラヒラとさせる。
「父さんとは母さんの死亡を機に、凄く不仲になってさ。今はもうどこにいるのかさえ分からないよ」
「探してやろうか? 私の魔眼なら見つけられるよ? 何と激早三十秒」
早っ!? 魔眼の力って改めて凄いな。いや、ケイの練度が凄いのだろう。流石、ケイ。
心を読んだのか、ケイが頬を赤らめている。
「いや、いいよ。いらない」
「そう? ならいいや。ま、探したけりゃいつでもいいな。僕には苦じゃないからさ」
「ありがとう」
ケイが両手を後頭部にやり、足を組んだ。
「僕はさ、皆に愛を感じているんだ」
「そりゃあな。僕だってこんなに愛してんだ。愛の深さで言えば、一番は僕! と言いたいところだけど、ここはクライネかもね。種類は違うけど、皆愛しているぜ」
「僕はそれを手放したくない。僕は強欲なんだ。全てを手に入れたいわけじゃないけど、全てを手放したくないんだ」
「いいじゃん、それ。僕もいいと思うよ。僕もその考え好きだぜ。来る者拒まず、去る者は作らずってね」
ケイがニカッと笑う。その太陽のような笑みを見ていると、こっちまで笑顔になる。二百年以上の年の功があり、様々な経験をしてきたはず。だというのに、これほどの明るさ。羨ましい。憧れる。
「好きだ、ケイ」
「僕もさ、ユーヤ」
静かになる。行きの馬車の中と同じくらい静かだが、あの時と比べ物にならないほど気まずい。
次、何を話せばいいんだよ。
「おい、ユーヤ」
小さな声で呼ばれる。ケイは目を閉じ、少しだけ唇を尖らせている。何してんだ?
「ユーヤ? ユ~ヤ~~~」
目を閉じたまま何回も僕の名前を呼ぶ。何だろ? 僕はケイと違って心が読めない。何がしたいんだ?
「おい!」
「え、何?」
「待ってんだろ!」
「何を?」
「キスだよ、キス。チュー!」
……?
おっといけない。呆けてしまった。キス? いや、意味は知っているぞ。あれだろ? 唇を相手に付けることだろ、確か。え~っと? 待っていた? 何で?
「マジか」
「え?」
「このあたりの教育はどうなっているんだ?」
「……?」
何かよく分からないが、ケイが目を丸くし、肩を落とした。僕は何かしでかしてしまったのだろう。
「これから学んでいこうな」
「……おう! 何かよく分からないが、ケイが落ち込んでいるのを見るのは嫌だからな!」
ケイは額に腕を当てて、天井を見上げた。
「こりゃ、大変だ」




