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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
1.ミデリー・ランレイグ
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7.押し切られるユーヤ

「何の用だ?」


 僕はシャツを手に持ちながら、叢から現れたエルフを睨む。


 今から足元にある、刃を潰した剣を拾おうとすれば、その前に攻撃されてしまうだろう。相手の動きを見てからでなければ、狙い撃ちされてしまう。


 さぁ、どう動く?


 僕が睨む先で、エルフが木剣をこちらに見せてきた。これから攻撃するぞ、という合図だろうか。もうそうなったら、まずは横に跳んで攻撃を躱し、こちらを狙っている隙に刃を潰してある剣を拾って、池の中に飛び込む。そのまま行方をくらまし、逃げ切ってみせる。


 目の前のエルフは木剣を手放した。


「は?」

「私は貴方の敵ではない」


 このエルフは何を言っているのだろうか? 僕は初めて会うわけではない。いや、互いに知っているだけで、顔を見せ合ったわけではない。

 このエルフは僕が巨木モンスターと戦っているときに、後ろから覗き見ていた奴だ。今更僕に何の用だというのだ。


「私は貴方に救われた。その恩を返したい」

「いらない。アンタが何をしようとしているのかは知らないけど、僕は強さを求めるのに必死なんだ。悪いけど、邪魔をしないでくれ」


 鋭い眼光で告げると、エルフは口を閉じた。エルフが何を考えているのかは何も分からない。しかし、ここに留まっていると、面倒ごとに発展するのは予想できた。

 僕はシャツとズボンを着ると、即座に立ち去ろうとする。


「お待ちを」


 やはり止められた。


「僕の方に話したいことはない」

「もし、強くなりたいのであれば、私の協力は必須レベルではないですか?」

「……どういうことだ?」

「ただ強くなりたいだけであれば、家事は必要ないのでは? その時間を修行に充てることが可能となります」

「断る」

「え」


 自分の案が即答で断られると思っていなかったのか、エルフは呆けた顔をしてしまった。


「僕は家事をしているときに、修業や戦闘の反省をしているんだ。僕は家事をしたいんだよ」

「な、成程。では、そうですね。……私が修業相手になりましょう」

「……巨木モンスターに負けていなかったか?」

「うぐ」


 純粋な疑問をぶつけると、エルフは言葉が発せなくなった。やはり負けていたんだな。

 このエルフがどれくらい強いのかが分からない。巨木モンスターに近い実力だったのか、手も足もできなかった。それによって修業相手になるかどうかが決めなければならない。


 待てよ。僕の戦ったあの巨木のモンスターに負けたのだとしたら、あれはあまり消耗していなかった。ということはこのエルフは手も足も出なかった側。修業相手にはならない!


「修業相手にならないだろ」

「うぐ」


 言葉に詰まった。


 エルフは顔を背けてぶつくさと何かを言っている。どうしても僕と一緒にいたいのか。


「分かりました。これで最後です」

「ほぉ、最後」

「これが駄目なら私はもう諦めましょう」

「よし分かった」


 僕は真面目に話を聞くべく向き直った。


「私は貴方にお礼がしたい」

「うん」

「共に住んでお礼がしたい」

「う、うん?」

「私をここで追い返すと、この森にいづらくなりますよ」

「何?」


 まさか、これは脅しか?


「私は、この森ではそこそこの身分でして、顔がきくんですよ。女性一人。しかも、知り合い。誰が捨てたんだ。あそこの男の子だ。何てことをしてくれたんだ。この森に入れてやんねぇぞ、と」

「脅しか、脅しだな」


 僕は腰を落として、刃の潰した剣を拾った。


「それで、どうされます?」


 脅しだ。これは間違いなく脅しだ。学のない僕でも分かる。

 僕は狩猟や強敵の邂逅以外に、草枝を拾ってお金に換えることもしている。森に入れないのは困る。


「ぐぬぬ」

「どう、されますか?」


 ズイ、と圧が強くなる。

 僕は観念したように力を抜いた。


「仕方ない。分かったよ。受け入れるよ」

「よし」


 エルフは真顔のまま握り拳を取った。


「僕はユーヤ。アンタは?」

「私はクライネです。以降、よろしくお願いいたします」


 僕はクライネと握手をした。

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