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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
6.フロイド
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13.強くなりたいユーヤ

 強くなりたい。


 それが肉体的な話なのか、精神的な話なのかは分からない。しかし、強くなりたい。その感情は少なからず、多くの人が手にしたことのあるものだと思う。男と女、子供と大人と老人、ありとあらゆる種族関係なく。


 強くなりたい。


 だから僕はここへ来た。

 なら、やることは一つだ。

 

 攻める。それしかない。

 僕は長剣を掴み、一気に立ち上がる。近づいてきていた偽僕へ猛然と斬りかかった。

 全力を込めた渾身の斬撃を、偽僕は簡単に、易々と、軽々と躱してみせる。


 僕は筋肉をイジメながら、振り上げを袈裟掛けに切り替えた。そこから流れるような連撃。

 これも躱される。


 顔に浮かぶ余裕は消えていく。

 どれもこれも容易く対応される。僕の力と速度を、それらを上回る力と速度で切り結んでくる。


「……あぁ、そっか」


 偽僕は何かに気付く。そして放たれる無造作な薙ぎ払いで僕は弾き飛ばされ、間合いを作った。

 戦慄させられるのは僕。何だ、この手の痺れは。この実力の開きは。


「目的なき目標は勝ち知らず。必ず叶うことがない」

「何だと!?」


 直後、偽僕の纏うオーラが変わった。偽僕が地を蹴り砕いた。

 姿が掻き消える程の速さ。僕の目が見開かれる。


 衝撃、轟音。防御で構えた長剣ごと飛ばされる。

 蹈鞴を踏む僕に秒を待たず迫る剛撃。何とか剣で弾くも、体勢が崩れてしまい、乱舞に捕まってしまう。

 視界の端で霞む斬撃に、何本も僕の髪が散る。


 僕に選択肢など、最初から存在しない。感覚を研ぎ澄まし、力一杯に戦うのみ。

 肉体の限界のことなど考えず、僕は全力で応戦した。


 が―――。


 しかし―――。


 それでも―――。


「何度やっても同じこと。目標しかないの? 本当に? それ以外の想いも感じ取れる気がするけど?」


 呼応するように偽僕も速度を上げてくる。まるでここまで力を出しても大丈夫だよね、と確かめるように。

 吹き荒れる剣の風の隙間を縫い、偽僕が攻撃してくる。そして、振り上げられた長剣が、僕の力任せの剣戟を弾いた。


「ほら、強くなれない」


 その言葉とともに、容赦のない袈裟斬り。

 体から大量の血飛沫が舞った。


「何でそんなに強くなりたいの?」


 また問答。どうやら偽僕は問答が好きらしい。

 しかし、その質問には答えただろう? 記憶力が悪いのか?


「だから、最強、に、なるためだ!」


 自分の体の傷を無視した攻撃。偽僕は躱して手首を掴んできた。軽々と持ち上げたかと思うと、僕のことを放り投げた。

 柱に叩きつけられ、床に落ちる。

 頭からも鼻からも血が落ちた。


「強くなりたいのは分かったよ。で? その後は? さっきも言ったろ? 目的なき目標は勝ち知らず。強くなって何がしたいんだよ、真面目な話」

「え?」

「強くなりたい、これは分かる。理解できる。その意志は伝わる。でも、何で? 何で強くなりたいんだ? 強くなるのは手段であって、目的じゃない。何かしたくて、それをどうにかするために強くなる。で? 何をしたいの? 君は」

「僕は強くなりたい。それは生まれついての目標だ。そこに目的とかゴールとかは考えていない」

「じゃあ、考えてよ。この戦いの中で」


 風の弾けた音が轟いた。 

 そう錯覚してしまいそうになるほどの速度。僕は華奢な体が吹き飛んで行った。


「ぐぅ~~~~っ⁉」


 凄まじい勢いで地面を転がる僕は、柱に背中をぶつけてようやく止まった。

 地面に剣を突き立て、震えながら立ち上がるが、膝に力が入ってくれない。


 満身創痍である。


 僕の元に偽僕が歩み寄ってくる。


 肩で息をする僕は何とか長剣を構えようとするものの、偽僕は急速に肉薄してきた。左手で僕の顔を鷲掴みにし、そのまま後ろの柱に叩きつけた。

 柱に夥しい亀裂が刻まれる。肺から呼気が引きずり出され、四肢が痙攣した。偽僕は乱暴に投げ飛ばし、僕は地面をバウンドする。


「う、ぐ」

「う~ん。初めての到達者だから少し泳がせていたけど、もう何もないのかな? 何かあるんだったら、私は貴方に何かしてあげようと考えていたんだけど」


 破滅が一歩ずつ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


 意識が飛びそうだ。

 思考が混濁している。血と激痛に体が叫んでいる。朦朧とする意識の中で、戦意をひたすらに駆け巡らせていく。

 力を手放そうになる四肢に喝を入れ、長剣を手繰り寄せようとする。


「目的のない状態ってさ、絶望だと思うんだよね。だって、どこに走ればいいのか分からないし、どれだけ走ればいいのか分からない。そういうのはいつか果てて、力尽きると思うんだ。目的がないなんて、救いがない」


 血だらけの体を、震える腕で床から引き剥がす。赤い雫を溢しながら、立ち上がっていく。

 まだ力が入る。なら戦える。


 偽僕が目を見開く。僕は完全に立ち上がった。


 深く息を吐き、偽僕を見据えた。


 命を燃やせ。

 体に残された生命の炎を。


「あぁ、道半ばで絶えるか」

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