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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
6.フロイド
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8.死にかけのユーヤ

 相変わらず洞窟が続く。僕はすでに四層目に到達していた。

 四層目に辿り着ける者がほとんどいないというのに真実味が増してくる。あの三層目の猛攻を考えると、適性の上級でさえ、突破は難しいだろう。


 ケイに聞いた話だが、そういったランクは連戦を想定していないらしい。中には、モンスター側が連戦の疲れや負傷のせいで弱っていたため、ランクが下にされていたことがあったことがあったそうな。ランクの付け方とはずいぶんと雑なものだ。

 この四層目はかなり天井が高い。下りてきた階段の長さから、このことは予想できていたとはいえ、いざ目にすると面食らってしまう。横幅も広くなっていたが、人間が並ぶと手を広げた6人分が通れる程度。高さは6人分並んでもまだかなりの余裕がある。

 この階層は、着いてから、ずっと地面が揺れている。それほど、大型のモンスターが多いということか。

 それに、人の気配がしない。する気配のほとんどがモンスターのものだ。


 三層目であの過酷さだったのだ。四層目はもっと過酷且つ過激だろう。


 最初に現れたのは、やはり巨大だった。

 体高七メートルだろうか。体長は二十メートルを超えているだろう。巨大だ。しかし、その大きさだけで気圧されてはいけない。

 焦げ茶色の体色。首元に生えている毛は白い襟巻のようだ。しかし、喉元の部分だけ赤い。あれは血の赤。獲物を喰らった後の赤だ。

 下顎が分厚い。それだけ筋肉が厚く、強靭だということだろう。もしかしたら鉄ですら食い破るかもしれない。


 僕は息を細く吐きながら剣を抜く。


『ギャォオオオオオオオッ!!』


 対するモンスターは、我こそが王者であると示すように雄叫びを上げた。

 マズイ。この雄叫びを聞きつけ、他のモンスターがやってくるかもしれない。


「チッ、クソが」


 悪態を吐いて、僕は走り出す。

 奴を観察するが、魔法の兆候は見られない。向こうも走ってきて、地面ごと喰らおうとしてくる。


 右足に力を込める。地面に罅を作りながら、一気に天井へ避難。

 口から石を溢しながら首を上げる暴君を見据え、急降下。モンスターの首を切る。

 手が痺れた。目をモンスターへ向けると、足を僕の上へ持ち上げていた。


 踏み潰される!?


 僕は態勢などを気にせず、前方へ転がった。何とか反転してモンスターを見る。

 モンスターの首からは、ビチャビチャと血が垂れている。


 切った。でも、斬りきれていない。硬い。さっきの赤い肌の三メートル台のあれより。

 モンスターはドスドスと走り寄ってくる。

 もう一度首を攻撃する。そうでなければ切り落とせない。


 王冠を彷彿とさせる鶏冠を震わせ、モンスターが口を開く。これまでと違う行動。これは何かある。

 僕が警戒をした直後、モンスターが炎を吐いた。僕は一気にスタートを切り、炎の下を潜る。今から追うように首を下に向けても、もう遅い。


 僕は力強く踏み込み、力一杯に跳び上がる。剣の柄で喉元を殴る。下から押し上げられたことで、首の傷口から肉と血が噴き出てきた。筋肉や骨でも留めておくことができず、体が破裂した。

 上から血やら肉やら骨やらが降ってくる。僕は避けることができずに浴びてしまう。


 あぁ、これは駄目だ。

 臭いし、重い。

 これは手に着いた血と違い、拭いきれない。


「やらかしたか?」


 僕は剣の血を拭ってから収め、両手で髪を掻き上げた。


「水浴びがしたいし、腹減ったな」


 僕は荷物を置いてきてしまっている。戦いに邪魔となってしまうからだ。

 つまり、僕は非常識も持ってきていないのだ。


 僕は再び剣を抜いて歩きだす。


 三分もすれば水の音が聞こえてきた。この先に水がある。まぁ、どうせモンスターがいるのだろう?


 水場に着くと、二足歩行の鰐がいた。ほら、やっぱりいる。

 何のモンスターか分からないが、肉を貪っている。水に血が流れ落ちていないので良かった。まだ飲めそうだ。


 僕は岩場に隠れながら水場へ行く。戦うか戦わないかに関係なく、水分補給は大事。

 ゴクゴクと飲んでいると、モンスターがこちらを視ている。

 口を水につけたまま、モンスターのことを見つめ返す。モンスター側も見つめたままだ。

 モンスターは何もすることなく去っていった。何だ? 腹が満ちているからか?


 ゆっくりとした動きで去る青肌の鰐を見送ると、僕は立ち上がった。

 僕は見逃された。それでいったい何を感じた? 怒りか? 安心か? 半々な自分が悔しい。

 下唇を噛み、少し俯きながらに歩く。僕の気持ちがどうであろうと、敵はやってくる。


 しかし、敵は不思議な状態であった。

 緑色の鎧を着たような怪獣と、顔と腰が白い、胴と足が赤い果実でできている女帝がいた。

 女帝が怪獣の頭を蹴り上げる。怪獣はそんなに効いていないのか、少し首を傾けた状態で腕を突き出した。女帝は飛ばされ、壁に叩きつけられる。


 モンスター同士も戦っているのか。いや、当たり前か。狙うのは探索者だけじゃない。

 怪獣が女帝に向けて口を開く。食らいつくつもりだ。捕食。その瞬間こそが一番隙が多い。


 僕の投げた剣がモンスターの鎧の隙間に滑り込む。僕は跳んで剣柄を握りながら、怪獣を蹴って引き抜く。


『ゴァ』


 鎧の隙間から怪獣の血が流れ出ている。それを全く気にしていないようにこちらを睨んできた。食事を中断させられた獣は、怒りの矛先をこちらに向けてくる。

 これでいい。別に助けたいとか思っていない。

 戦いたい。見向きもされなかったアレに対する怒りかもしれない。


『ゴァオオオオオ!!』


 怪獣が吠える。

 そして、タックルしてくる。


 駄目だ。これは受けてはいけない。僕は横に転がって躱す。

 怪獣は急ブレーキをかけると、こちらに向かって跳んできた。腹から圧し掛かってくる。

 そこにすでに僕はいない。怪獣の腹の下が罅割れる。

 圧し掛かりは体重に依存する。でも、この威力。こいつは相当重いのだろう。


 怪獣が地面に両手を着き、立ち上がろうとする。僕は剣で腕を弾き、支えを外させる。

 怪獣が再び地に伏せる。その頭に踵が落とされた。僕のものではない。

 それは女帝の一撃。女帝は怪獣の頭を砕いたのだ。一撃、強すぎないか?


 女帝を見て、汗を流す。この距離、剣一本分か。動かれてから反応できるだろうか。

 その時、緑の兜からオーラが膨れ上がった。


「何だ!?」

『ッ!?』


 少し後退りをしたところに、女帝の脚撃が入った。この一撃、よく腹が裂けなかったと思う。そう思えた。実際に内蔵は破裂している。

 女帝は僕を足場にして壁を駆け上がり、天井に吊り下がっていた。


 緑の外殻がバキバキと盛り上がり、弾け飛んだ。


 大爆発。


 元々ゴロゴロと転がっていた僕の体はより遠くへ。


「うげ~」


 僕は膝を着いて四つん這いとなり、血反吐を吐く。頭からも血が流れてきて、左目に入る。


「くっそ……はぁはぁ」


 力なく悪態を吐き、目を擦る。視界は赤いままだ。

 地を見る世界に赤い足が入ってくる。


「くっ!?」


 僕は痛む体を無理に起こして、壁まで後退る。


 女帝は頭の房を一本毟ると、こちらに放ってきた。僕はそれを咄嗟に受け取ってしまう。

 女帝はそれを見届けると、走り去っていった。何だ、これは?


 見た目。緑色で植物の葉のようだ。

 匂い。少し甘く、フルーティな感じだ。

 感触。個体としての硬さを持ちながら柔らかめ。

 味。匂いの通り甘い。フルーツの甘さだ。


 これは実際にフルーツ、なの、か?


 ちょうど腹が減っていたから、美味しい。というか、傷が治っている。この房は回復能力があるのか。


 ……もう一房くらい欲しかったな。

 まぁ、ないものはしょうがない。


 さて、次の階層を目指すか。

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