6.二層目も踏破するユーヤ
森だった。今度は森だった。
どこか結界に守られたかのように、階段出入り口から半径三メートルは木が生えていない。
しかし、それよりも先は暴力的なまでに生い茂っている。
陽のような光は何枚もの葉に遮られ、地上はもう真っ暗だ。十メートル先は闇、いや、もっと手前からか。
木々の間を走るのは、巨木モンスター以来か。あの時と比べると暗すぎる。大丈夫か? これ、走れるか?
僕はトントンと軽く跳び、一気に走り出した。両の目を別々で動かしながら走る。
ミーツルーツ、ボルダー、アルミラージ。
中級のモンスターたちが見えるが、こちらを襲ってこない。近くに寄ってこないため、戦闘が開始されない。
「ム」
目の前に赤い肌をした、大柄なモンスターがいた。向こうは気付いていない。これは無理だ。避けられない。斬ろう。
向こうが気付いた瞬間、僕は剣を抜く。
三匹のモンスターの首が飛んだ。速度は落とさない。このままガンガン進む。
ゴロゴロと転がっている硬いダンゴムシのような虫の横を抜ける。確かこいつは毒虫だったな。殻を割ってみると、白い身が入っていた。プリプリで美味しそうだったが、舌が痺れてしまった。
この毒虫はもう食べない。
毒虫が去っていく。
奥へ行けば行くほど、モンスターの強さが上がっていく。これがこの大迷宮の特徴なのか。
「ゴォア!」
僕は足を止める。目の前に黄土色の巨大な、大きな棍棒を持つモンスターが数十体もいた。
そいつ等は何かを守るように立っていた。あれは何だ? 箱? 何か装飾されている。色とりどりの宝石に、金色のメッキ。宝箱か?
気になってくる。あれは中身はなんだ?
宝箱といえば、中身はいいものが多い。金銀財宝か武具か。それが何かは分からないが、気になってしまう。きっといいものに違いない。そう思える。
黄土色のモンスターが棍棒を振り上げる。僕は当たり前かのように剣を振るった。
簡単にモンスターの体が切れた。
流石に仲間が斬られれば、激怒して襲ってくる。
僕は独特なステップを踏みながら、剣を振り回す。ステップがランダムであるため、棍棒が当たらない。振る位置が定められないのだ。
黄土色のモンスターは困惑している。その隙に刃が肉を断つ。一振りで何匹ものモンスターを狩る。
止まらないように剣を振るう。それはまるで流れる水のように。
このモンスターは筋肉が硬い鎧となっており、その下には骨の鎧がある。どれか一つに、一振りが遮られれば、袋叩き。死。
全部斬る。それがここでやらなきゃいけないこと、そしてこの宝箱を開ける。
モンスターは真っ赤に瞳を輝かせ、棍棒を振ってきた。僕は剣で受け止める。間髪を入れずにモンスターが連携した。僕の脇腹に棍棒が入る。
痛い。内臓は破裂していない。でも、痛い。とはいえ、エルやアイネに比べれば痛くない。あれはもっと理不尽でどうすることもできないものだ。
僕は背を丸めて、ボールのように跳ねる。そして、木に足裏を付けて爆砕。
僕はモンスターの脚元に行く。この宝箱は僕のものだ。
モンスターをすべて切り伏せた。フー、と息を吐きながら、剣を収める。
目の前に宝箱。もうわくわくが止まらない。
「ん?」
ふと気づく。
なぜ僕はこれに夢中なんだ?
宝箱まであと三十センチメートル。そこから僕は動けない。肘を完全に伸ばした姿勢のまま、背筋に冷たいものが流れた。
これは何だ? 宝箱だ。とても魅力的に視えている。キラキラと、周りに光が珠のように浮かんで見える程、魅力的に。
なぜ?
ゴテゴテと装飾されている宝石が綺麗だから?
縁取っている金が美しいから?
鍵の付いた留め具の紋章がかっこいいから?
もう一筋、汗が頬を伝い落ちた。
そこから僕の行動は早かった。僕は剣を鞘ごと抜き、一歩踏み込んで、宝箱を殴った。
感触が気持ち悪い。見た目通りの木材ではない。金属のようでもない。もっと生温かくて、少量の反発のある柔らかさ。
これは生き物だ。
自らの眦を引き裂くように睨む。真正面から殴った宝箱は、横転し、留め具が外れた。
何か出てくるか?
動かない。動かない。動かない?
宝箱は何のアクションも起こさない。
そろりそろりと回り込み、宝箱の中身を確認すると、何も入っていなかった。
「え?」
何も、入っていなかった。
首を傾げながら、二層目を踏破した。僕はそのまま二層を後にした。




