5.一層目を突破するユーヤ
草原だった。そう、草原だ。草花がちらほらと風に揺れている。広い、広い草原だ。
「草だ」
屈んで毟った草の匂いと味を確かめ、本物の草であり、モンスターでないと確信した。
背の低い叢が続いており、遠くにモンスターが見えている。
大迷宮と呼ばれる洞窟の中にいるはずなのに、光があるのか。頬を照らす光は確かに温かい。陽の光だ。
ここは穴の中だぞ。そうじゃなくても、ここは地下だ。天井に穴がないのにもかかわらず、どこから光が入っているんだ?
いや、原理なんて知らない。分からなくていい。僕は強くなりたくて、強い奴と戦うためにここまで来ているんだ。
明るいなら戦いやすい。それでいいじゃないか。
僕はスタートを切る。
ここの恐ろしさは広さだ。どんなに目を凝らしても端が見えてこない。もしかしたら、コギト島と同じくらい広いのではなかろうか。
走る、走る、走る。
モンスターは見えている。しかし、襲ってこない。僕の気配を本能的に感じ取っているのか、どんどんと去っていく。
見えているモンスターはリスや鹿、狼か。僕の姿を感じ取るたびに、すぐいなくなってしまう。
僕の方が足が速い。追いかければきっと追い着いて攻撃できるだろう。
しかし、それはやらない。
だって、弱いんだもん。
ケイが言うに、僕は今伝説級上位か神話級下位の実力らしい。この階層にいるモンスターは下級。全く釣り合っていない。
だから僕も戦う気など、限りなくないと言っていい。とっとと二階層へ行こう。
――――――――――
二時間が経過した。
僕はいまだに草原の中を走っている。何と困ったことに、二階層への階段が見つからないのだ。
「……どこだよ、ここ」
伝う汗を拭いながら、辺りの景色を睨む。
「おい、ガキンチョ。お前迷子か?」
声を掛けられ、顔を向けると、そこには茶系の毛並みをした大柄な女性が立っていた。その女性の後ろには五人の男女。
「私はチーム『鳥獣牙刃』、リーダーの猿獣人のエライザだ」
「俺様は獅子獣人のレオン」
「アタシは猫獣人のミリーリャ」
「アタイは鳥獣人のトンファー」
「私は蛇獣人のアラストレミア」
「僕は象獣人のバンバ」
困ったぞ。もう獅子獣人の名前が思い出せない。
「お前の名前はなんだ、ガキンチョ」
「僕はユーヤ」
「よし、ユーヤ! お前は迷子か?」
「迷子って?」
「おいおい、そんなんで怒ってんじゃねぇよ。俺様みてぇな、スーパーな存在にゃなれねぇぜ?」
ちなみに僕は怒っていない。今の自分の状況が迷子だと思っていなかったため、衝撃を受けただけだ。
「僕は迷子じゃない。だって、まだ二時間しか経っていないからな」
「ハハハ。これが価値観の違いというやつですかな?」
蛇獣人が己の額をハンカチで押さえながら発言した。
「アタイ等は上に行くけど、一緒に来るかい?」
「いや、下に行きたい」
「ならあっちよ」
鳥獣人は鉤爪で方向を示した。進む方向はあっていたらしい。単なる距離の問題か。
「上に行くってことは攻略してきたのか?」
「うん? あぁ、そうだぞ」
「下はどんなところ?」
「三層からは地獄だね。攻略に時間がかかったのも頷ける。それより先は知らない」
「よし」
それだけ聞ければ僕は満足だ。
僕には分かる。あのまま鳥獣牙刃と一緒にいると面倒なことになっていた。仲間はどうしたんだってな具合に。
そりゃあ僕だって、自分がガキである自覚はある。ガキが一人、難攻不落に挑もうなんて無茶無謀をさせるわけがない。
粗暴といえど常識はあるのだ。
捕まると面倒だ。
僕はぐんぐんと速度を上げていき、一層目をゼロ撃破で踏破した。
草原の中に突如として現れた洞穴に階段がある。これは下への階段。二層目へと足を踏み出した。




