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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
1.ミデリー・ランレイグ
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6.恩人を見つけ出したクライネ

 初めて旅をした。

 エルフにはエルフ区域というものが存在している。エルフが旅をしても安全だとされている区域だ。


 私は生まれて初めてその区域を出た。初めて見る景色は不思議だらけだった。


「何だ、あれ」


 目に見えたのは馬車だった。どこか困っているように見える。


 少し話を聞いてみよう。


「もし、何かお困りですか?」

「あん?」


 真っ先に反応したのは左目付近に大きな獣の爪跡がある男。遅れるようにして反応した男達もこちらを視てきた。

 男は下卑た笑みをこちらに向けながら近づいてきた。


「嬢ちゃん。こんなところに一人でなんて危ねぇぞ?」

「私は旅人です。いえ、私の話はいいです。今は貴方方の話だ。このような場に拠点を作り、何をしているのです?」

「俺達か?」


 左目に疵を持つ男はぐるりと仲間を見渡すと、自分を指差した。


「俺達は冒険者。前金と報酬がしっかり貰えるんなら、割と何でもやる職業だぜ」

「成る程。冒険者でしたか。それで、ここで何を?」

「あ、あぁ。俺達はここでジンダタを待ち伏せしているんだ。アイツの羊毛を刈ってくるっていう依頼されているからな」

「ほぉ、あの羊の」


 私は斑模様の毛を持つ羊を思い浮かべる。あれは体重がある分、突進が強力だった覚えがある。


「嬢ちゃん、旅をしているってんなら、疲れたろ。それとも同業者か? どのみち疲れたんじゃねぇのか?」

 

 やたら疲れを強調してくるな。


「このお茶でも飲みませんか?」


 切れ長な眼の男が、湯気の出ているカップをこちらに差しだしてきた。親切さは微塵も感じない、私には分かる。これには毒が入っている。

 巧妙に隠しているつもりなのだろうが、そんなのは関係ない。

 これでも私はエルフの王族だ。昔から毒を飲み、耐性を付けている。それこそ、アヴファスやジャックトレスの毒にだって耐えられるだろう。

 母であれば、もっと強い毒にも耐性を持ち合わせている。


 厭らしい笑みを浮かべている男達の前でカップの飲み物を一気に呷った。


「申し訳ありません。私はこの程度では麻痺しませんので」


 私は上品に口元を拭い、獣の爪跡がある男を見つめた。


「チッ!? テメェ等! やっちまえ!」


 男は斧をこちらに向けて仲間に命令を出した。仲間達はそれぞれの武器を抜き、私の周りを取り囲んだ。

 厭らしい笑みは消えておらず、この人数があれば問題ないと考えているのだろう。それとも捕まえた後のお楽しみについてか。どちらにしろ碌なことではない。


 私は座っていながら、腰元の木剣に手を添えた。


 後ろから男がやってくる。私は木剣を抜くことなく、魔法をぶつけて浮かせてやる。

 それを皮切りに男達が群がってくる。私はすでにこの身と心を捧げることを決めている相手がいるのだ。指一本たりとも触れさせてやるものか。


 全方位へと風を放出しながら立ち上がる。多くの男が風に押し戻された。この風のカーテンは上級者くらいしか突破できないだろう。

 切れ長な目を持つ男が突破してきた。この男は上級の実力者、ということか。


「ヂィアッ!」

「――つっ!」


 裂帛と共に剣を振るってくる男の横をすり抜け、魔力を込めながら木剣を振るった。


「ガッ!?」


 背に強烈な一撃を受けた、切れ長な目を持つ男は目を見開いて倒れた。


「何?」


 獣の爪跡がある男が目を丸くする。私のことをか弱い少女だとでも思ったか? 残念。これでも私は伝説級下位のエルフだ。


 私は超速で木剣を振るった。男の持っていた斧を打ち、上空に両手を挙げさせる。

 無防備となった顔面、胸部、腹部を打った。


「ゴッ!?」


 獣の爪跡を左眼に持つ男は、口の端から泡を吹きながら倒れた。汚い。人間というのは、こういう時にすら汚いのか。


 私は木剣を振り、汚れを落とすために然魔法と水魔法を駆使して綺麗にする。

 作業をしながら歩いていると、いつの間にか湖に来ていた。ここの水を利用すれば、水魔法を使わなくてよかったのではないか?

 水の音が聞こえてくる。水の不自然な音だ。明らかに何かが水辺にいる。人か獣か。


 木剣を握る力を強めながら、叢に隠れる。そのまま隙間から顔を覗かせる。


 そこにいたのは、全裸の男。私は自分の目を潰したくなった。

 しかし、私は目が離せなかった。

 そこにいたのは、探し求めていた男の子だったのだ。

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