4.迷宮の入口で舐められるユーヤ
「お客さ~ん、着きましたよ~」
御者に言われて箱馬車を下りる。長旅のせいで硬くなった体をほぐすように伸びをし、腰を捻った。
馬車の方では、ケイがチップを支払っている。
ここはもうすでに大迷宮の前。これまでに運河を越えて、二国間を抜け、何か上級のモンスターが揃っている森を抜けたところにある街にいる。
ケイが言うには、この町も大迷宮の一部なのだとか。誰も知らないかもしれないから言わない方がいい、とも言っていた。その魔眼、いったいどこまで見えているんだ?
この町の名前は迷宮都市ワレイホヨ。大迷宮へ挑む者のための町だ。保存食、武具、消耗品、何だって売っている。それに鍜治場、宿、酒場などの施設もある。
「さて、まずはどうすんの? もう攻略する? 一旦休む?」
「もう行く」
「あ、そう。じゃあ食料は多めに持っていくといいよ。空腹ってのは体だけの問題じゃなくって、心の問題でもある。心まで飢えたら負け組になっちまうぜ」
「……分かったよ。じゃあ、ケイはどうすんの?」
「う~ん、そうだな~。僕はワレイホヨのグルメでも堪能していこうかな~」
下唇に指を当てながら答えるケイは、そう言うとフラフラと酒場に入っていった。もうかれこれ二か月は家にいるが、帰らなくて大丈夫なのか?
まぁ、ケイは強いから、自分で何とかするだろう。
今は自分のことだ。どのようにして自分を強くするのかが重要。僕は強くなるためにどうするべきかを考えなくてはいけない。考えなくして成長はない。
強くなるために強い奴と戦う。それをするためにここまで来たのだ。早く迷宮へ行かなくては。それでもって、早く下まで踏破するのだ。
僕は口を引き結び、一人で大迷宮の入口へ向かう。周囲にいる大迷宮攻略挑戦者達の目は冷ややかであり、また苛立ちを持っている。
原因は僕の姿、詳しく言えば年齢だろう。こんな幼いガキが大迷宮に挑戦しようだなんて、自分達の沽券にかかわることだ。
自分達は子供と同じように攻略できていません、などというレッテルを貼られたくない。当たり前だ。
「何、こんなところに来ているんだ~~?」
「ガキは家でママのおっぱいでも吸ってな」
ギャハハと下品に笑った。つられて周りの者達も笑っている。
ママか。僕が物心つく前にはすでに故人だった。だから母乳の味は知らないし、温もりも知らない。父さんは育児放棄気味であったため、近所の牛乳を貰っていた。
母の乳の味か。
煽りにはきちんと乗ってやろう。
「じゃあ、お前が連れてきてくれよ」
「あん?」
僕は煽ってきた男のこめかみを、鞘に収めたままの剣でぶん殴った。
「……は?」
何も理解できていないままの男も叩き潰す。
「僕の母さんはもう死んじゃっているんだ。家でママのおっぱいを吸ってやる。だからお前等が連れてこいよ」
「何、を……」
何か反論して来ようとする前に、脳天に鞘を叩きつけた。
周りで笑っていた輩から笑顔は消えていた。
二人十発ずつ殴ったところで煽りへのお返しを止め、大迷宮へと向かう。僕の後ろの方で、何やらワイワイ騒いでいるが気にしない。
僕の前にシュッとした、端整な男女が立ち塞がった。
「……何か?」
「…………いや」
「おい、サンナ?」
「行っていいぞ」
女は僕に何を感じたのか、男の胸を押して道を通してくれた。僕は素直に歩くことにした。
「お、おい、サンナ、何で通したんだよ」
「あれは死にたがりの眼だ。関わるのは止めた方がいい」
「な、成る程」
おい、聞こえてんぞ。
僕はオドオドしている男と強気な女の会話をばっちりと聞き、舌打ちをした。
そして、僕は大迷宮という洞窟内の階段を下りた。




