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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
6.フロイド
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3.馬車に乗るユーヤ

 夜明け前の街道、肌寒い冷気が漂っている。

 鎧戸が締め切った家や店が並んでいる。日中の活気が嘘のように閑散としていた。


 村が朝の静寂を纏っている中、うっすらと白み始めている東の空を目指すように、二つの影が歩いている。


「隊商にはもう話を付けてある。まずはあれに乗ってノベスク運河へ行くよ」

「……分かったよ」


 僕は身軽な旅装の上にマントを羽織った恰好で、紐を握って荷物袋を肩に担いでいる。

 ケイはさらにラフな恰好で、タンクトップに短パンだ。


「移動だけで丸一週間はかかる。覚悟しておいてくれ」

「分かっている」


 僕は分かっているが、ケイのその恰好はいいのだろうか。一週間、いけるか?


「いけるよ~、大丈夫大丈夫。何とかなるさぁ」


 ケイが指を差す。


「あそこ」


 ユーヤ達が乗り込んだのは、思ったよりも広い箱馬車だった。屋根があり、窓がある。朝が早すぎたせいか、他にお客さんがいない。


「誰もいないなァ」


 呟きながら馬車の一角を陣取った。


「ユーヤも座れよ」


 ケイが自身の横をトントンと叩いて催促してくる。

 ……隣は何されるか分からないから嫌だなァ。斜向かいに座ることにしよう。荷物を下ろしてから腰を下ろす。


 馬車の中は静か。誰も何もしていない。


 そして三分後、車輪がゆっくりと揺れる。流石ポルクス家の技術。揺れをほとんど感じない。感覚が鋭くなった今でも頑張らなければ感じ取れない。


 四日後。

 ここまで何も話せていない。気まずい。というか、いたくない。


「ケイ」

「ん?」

「願いを聞いてくれてありがとう」

「……ん」


 窓の外を見ながら礼を言う。外の景色が動いている。ケイの返事が素っ気ない。

 初めてだ。ケイがそんな対応してくるなんて。何か怒っているのだろうか。


 いや、違う。僕が今考えるべきは強くなる方法だ。

 今から僕は大迷宮へ行く。


 大迷宮のことを知ったのは最近だ。具体的にはケイに聞いた。

 迷宮というのは世界各地に点在しているらしい。僕は見たことないが、ナミビエの森の中にも存在しているらしい。

 基本は二、三階層のものが多いらしい。十階層を超えるものは少なく、それでも存在しているそうな。

 そのすべては最下層まで隅々まで攻略されているらしい。

 そのため、強さを求める者達はすでに攻略されている迷宮へ行き、育成期間のように扱っている。


 ただし、コギト島にあるものだけは攻略されていない。だからこそ”大”の字がつけらて、大迷宮と呼ばれる。


 コギト島はレイベルス国のすぐ東側にある島だ。パランクスとホンスクロの二国が存在している。大迷宮はそのどちらにも属していない。どうやら、攻略した方が所有権を得ることになっているらしい。

 そのため、大迷宮攻略者はどちらかの国で入宮の登録をしてからではないと、入れてもらえない。そんなことになっていても、攻略しようとする人の数は減らない。

 千年経っても攻略できていいないのが大きいだろう。三層まで攻略できているらしく、実は百層あるのではないか、とも言われている。


「何でミデリーとかエルとかは行かないんだ?」

「国際問題になるからね。レイベルスの最強がどこかの国に一時的とはいえ、所属してしまうのは大問題になるんだ。うちのエルも同じ。同盟国であるレイベルスならまだしも、パランクス、ホンスクロのどちらに属しても問題アリ。アイネは別に最強を目指しているわけじゃないから、迷宮に興味ナシ」

「成る程」


 馬車の景色に人工物が増えてきた。もうすぐ着くのだろう。


「馬車を下りたらサヨナラだ。そうなる前にもう一度言っておくよ」

「ん」

「僕との約束を覚えているかい?」

「……あぁ」

「夢を叶えろよ」

「……あぁ」


 ケイは優しい。頑張れとか行くなとかを言ってこない。ただ尊重する。その上で、言外に帰ってこいと言ってきている。

 やはりケイは優しい。

 帰ってこよう。

 絶対に、だ。


 そして、ケイには一番に報告しよう。

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