3.馬車に乗るユーヤ
夜明け前の街道、肌寒い冷気が漂っている。
鎧戸が締め切った家や店が並んでいる。日中の活気が嘘のように閑散としていた。
村が朝の静寂を纏っている中、うっすらと白み始めている東の空を目指すように、二つの影が歩いている。
「隊商にはもう話を付けてある。まずはあれに乗ってノベスク運河へ行くよ」
「……分かったよ」
僕は身軽な旅装の上にマントを羽織った恰好で、紐を握って荷物袋を肩に担いでいる。
ケイはさらにラフな恰好で、タンクトップに短パンだ。
「移動だけで丸一週間はかかる。覚悟しておいてくれ」
「分かっている」
僕は分かっているが、ケイのその恰好はいいのだろうか。一週間、いけるか?
「いけるよ~、大丈夫大丈夫。何とかなるさぁ」
ケイが指を差す。
「あそこ」
ユーヤ達が乗り込んだのは、思ったよりも広い箱馬車だった。屋根があり、窓がある。朝が早すぎたせいか、他にお客さんがいない。
「誰もいないなァ」
呟きながら馬車の一角を陣取った。
「ユーヤも座れよ」
ケイが自身の横をトントンと叩いて催促してくる。
……隣は何されるか分からないから嫌だなァ。斜向かいに座ることにしよう。荷物を下ろしてから腰を下ろす。
馬車の中は静か。誰も何もしていない。
そして三分後、車輪がゆっくりと揺れる。流石ポルクス家の技術。揺れをほとんど感じない。感覚が鋭くなった今でも頑張らなければ感じ取れない。
四日後。
ここまで何も話せていない。気まずい。というか、いたくない。
「ケイ」
「ん?」
「願いを聞いてくれてありがとう」
「……ん」
窓の外を見ながら礼を言う。外の景色が動いている。ケイの返事が素っ気ない。
初めてだ。ケイがそんな対応してくるなんて。何か怒っているのだろうか。
いや、違う。僕が今考えるべきは強くなる方法だ。
今から僕は大迷宮へ行く。
大迷宮のことを知ったのは最近だ。具体的にはケイに聞いた。
迷宮というのは世界各地に点在しているらしい。僕は見たことないが、ナミビエの森の中にも存在しているらしい。
基本は二、三階層のものが多いらしい。十階層を超えるものは少なく、それでも存在しているそうな。
そのすべては最下層まで隅々まで攻略されているらしい。
そのため、強さを求める者達はすでに攻略されている迷宮へ行き、育成期間のように扱っている。
ただし、コギト島にあるものだけは攻略されていない。だからこそ”大”の字がつけらて、大迷宮と呼ばれる。
コギト島はレイベルス国のすぐ東側にある島だ。パランクスとホンスクロの二国が存在している。大迷宮はそのどちらにも属していない。どうやら、攻略した方が所有権を得ることになっているらしい。
そのため、大迷宮攻略者はどちらかの国で入宮の登録をしてからではないと、入れてもらえない。そんなことになっていても、攻略しようとする人の数は減らない。
千年経っても攻略できていいないのが大きいだろう。三層まで攻略できているらしく、実は百層あるのではないか、とも言われている。
「何でミデリーとかエルとかは行かないんだ?」
「国際問題になるからね。レイベルスの最強がどこかの国に一時的とはいえ、所属してしまうのは大問題になるんだ。うちのエルも同じ。同盟国であるレイベルスならまだしも、パランクス、ホンスクロのどちらに属しても問題アリ。アイネは別に最強を目指しているわけじゃないから、迷宮に興味ナシ」
「成る程」
馬車の景色に人工物が増えてきた。もうすぐ着くのだろう。
「馬車を下りたらサヨナラだ。そうなる前にもう一度言っておくよ」
「ん」
「僕との約束を覚えているかい?」
「……あぁ」
「夢を叶えろよ」
「……あぁ」
ケイは優しい。頑張れとか行くなとかを言ってこない。ただ尊重する。その上で、言外に帰ってこいと言ってきている。
やはりケイは優しい。
帰ってこよう。
絶対に、だ。
そして、ケイには一番に報告しよう。




