1.ユーヤを心配するエル
「ん」
全身の筋肉を緊張させ、一気に脱力。大きく息を吸い込んで、伸びをする。
朝。この時期の朝はツライ。今は厳冬だ。ぬくぬく温かいベッドは全種族共通の聖域だ。欠伸を一つすると、私はベッドから出る。
いくらぬくぬくできるからと言っても、ずっと籠るのは性に合わない。ケイなら一日中籠るだろう。
家の外に出る。私は自力で家を作った。ケイは私の部屋で同棲中だ。場所はユーヤ宅の西側、すぐ傍だ。
こうして外に出れば、ユーヤが最近修業しているところになっている。私と戦うために場所を移動させたのだ。
今、地面に伏しているユーヤは、あの日から根を詰めている。
あの日からユーヤは修行の密度を濃くした。さらなる強さを得るために連日連夜素振りをして、実践を求めるようになった。
今のユーヤは危険だ。いつ死んでもおかしくない。
気付いているのに何もできないのは嫌なので、私達はユーヤと一つの約束をした。
私達の許可が得られるまで、外部との実戦を禁ずる、と。
ユーヤはしぶしぶ了承してくれたが、毎日のように戦いを挑んでくるようになった。
ケイは戦えない。アリス達はミデリーの関係で実家に帰ってしまった。ユーヤの要求を受けられるのが私かアイネしかいない。クライネ? 戦おうとしないよ。
「エル」
ほら、呼んできた。
「何だ」
「戦ってくれ」
「あい、分かった」
汗だくのユーヤが訓練用の剣で切りかかってくる。私は素早く懐へ入り、腹を蹴り上げた。それだけでユーヤは蹲り、動けなくなった。
ユーヤは死にたがっている。これでは遠回りをする自殺願望者だ。
アイネは、こんな姿見ていられない、と言って竜の郷へ帰ってしまった。本人は一時的なものできちんと帰ってくると言っていたが、いつ帰ってくるのか。
クライネ? アイツは駄目だよ。ユーヤは戦っていてこそのユーヤだという考えを持っていやがる。止めようとすらしてくれない。止めなきゃ死ぬぞ、マジで。冗談じゃなくて。まぁ、止めちまったら、クライネの大好きなユーヤじゃなくなっちまう気がするってことだろうな。
尊重するよ、クライネ。
でもな、アイツの戦い方、頻度を考えるべきさ。死ぬ前にな。
私は伸びを一つすると、家へと戻っていく。
「休めよ、ユーヤ」
おそらくユーヤは休まないだろう。休む意味を見出す前に、強くなることしか考えないだろうな。
私は口下手だから、いい風に言うことができない。
「なぁ、ケイ。お前ならどうする?」
「んなぁ? ねむねむ」
ケイは目を擦っている。ベッドから上体を起こした。なぜか下着姿である。
「起きたてに何の質問だよ。というか、僕が心読めるとはいえ、口に出さないのは、そっちの怠慢だからね。エルの悪い癖」
ケイがプリプリ怒っている。
「ごめんごめん。ユーヤのことだよ。アイツと戦うたびに思うんだ。アイツは弱くなっている。でもアイツ自身になんて言ったやりゃいいのか分かんねぇんだよ」
「で、僕ならどうするかって?」
「え~、そうだな~」
ケイはもったいぶるように、下顎に人差し指を添える。
何でここでもったいぶるんだ?
一歩分ケイに寄る。いざという時は無理矢理。
「チョチョチョ、ごめん、ごめんって。暴力なんか来たら僕死んじゃうよ。モー、ジョーダンだよ、ジョーダン」
ケイが焦ったように謝り、顔をパタパタと煽いでいる。
ケイはただ遊んでいるときは、強く言うだけで簡単に引き下がる。彼女なりの線引きがあるのだろう。
「もー、物騒だなァ。う~ん。まぁ、僕の答えだけどね、向こうが何かこっちを頼ってくるまでそっとしておこうと思っているよ。本当に手遅れになっちゃう前には僕だって止めるけど、今はその時じゃないかな」
「手遅れ?」
「死」
それは簡潔な答えだった。それでいて分かりやすい答え。誰もが分かる手遅れの指標。
「予兆ってわかんのか?」
「僕にはね、この眼があるんですよ。心を読んで確かめるさ」
「……頼むぜ」
「あいあい。任せてよ。お互いがお互い、出来ることをしよう。僕もユーヤにはいなくなってほしくないし」




