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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
5.イアウカ
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12.見逃されるユーヤ

 何も、湧いてこない。


 初めて知った。これが喪失感か。父さんはこれを味わっていたのか。今なら父さんとも仲良くなれそうだ。

 こういう時、泣いたり喚いたり、敵を討とうと闘志を燃やしたりするものなのだろう。


 でも、駄目だ。何も湧いてこない。涙も、声も、怒りさえも。


 未だに右前脚を燃やすイアウカから目を逸らせないまま、周りの女性たちの様子を窺う。


 エルは睨んでいる。イアウカのことをギロリと睨み、両拳を握っている。

 拳からは血が出ていた。握り込みすぎて出ているのだろう。それほどまでの怒りを持ち合わせている。

 それでも襲い掛かろうとしない。友を失くし、殺した相手が目の前にいるにもかかわらず、だ。

 それほどまでに力の差があるのか。それともそうするように言われているのか。

 どちらにしろ、エルは前に出ようとしない。


 アイネは、顎先でイアウカを差すように上に向いている。そこからイアウカを見下ろしていた。

 喉は急所のはずだ。恐怖を感じたり自信を失ったりした時は、普通喉を守るようにして顎を下げる。

 顎が上がっているということは、何かしらに自信があるというのか。

 いや、違う。虚勢だ。アイネの背に汗が溜まっている。緊張している。ストレスを感じているのか。

 イアウカに対して精一杯の虚勢を張っている。やはり、それだけの力の差があるのか。


 反対にケイは冷静だ。至って冷静だ。強者二人は緊張し、汗を滲ませているのに、冷静だ。

 ケイはやれることやれないこと、出来ることできないことを知っている。この状況、生存を諦めてしまっているのだろうか。

 瞳は真っ直ぐとイアウカを見ている。ケイの武器は眼だ。きっと今も諦めずに何かを探っているのかもしれない。


 ミデリーは、とても強い女傑だ。それと同時に、アリスの育成を放棄した親失格者だ。僕にとってのミデリーの評価などこんなものだ。

 強さという点では尊敬するが、それ以外は尊敬に値しない。母さんを失くし、父さんとは喧嘩別れをしている僕にとっては、最悪に近しい女性。


 そんなミデリーであるはずなのに、これほどまでの喪失感。彼女の死は、少なからず僕にとっては衝撃的な出来事であるらしい。衝撃を受けた僕はどうすればいい。


 僕は手持ち無沙汰になってしまう。二人は動く気配がない。一人がじりじりと僕に近づいてきている。僕は何をすべきだ?


 冷静になれた。皮肉だが、ミデリーの死のおかげだ。


 僕は僕自身の剣に手を掛けた。このまま抜いて切りかかる。よし、行こう。


 その瞬間にケイが柄を押さえた。

 瞬発的にケイを見る。


「そんな顔向けんなよ。僕は怖すぎてちびっちまうよ」

「何で止める。あれはミデリーの仇だろ!?」

「ハッハッ。僕達は君を生かして帰してやるって約束したかんな」

「あぁ、それに」


 ケイが自慢げな顔をする。それでも冷や水が流れていた。ケイも怖いし、不安なのか。

 こちらを視ずに顎でイアウカを指すアイネの台詞を聞き、狼を見る。その時、イアウカは背を向けた。


 その程度なのか、僕は。エルもアイネも敵対しようとしていない。その意志を向こうが感じ取っていたのだとしても、僕は敵対する気満々だ。


 それでも、背を向けた。


 その程度。イアウカは実力を見抜いた。その上で見逃された。敵にならないと判断されて、背を向けられたのだ。

 言外に告げられた。お前じゃ相手にならない、と。お前は雑魚である、と。


 柄から手が離れる。力が抜けてだらりと落ちた。その手をケイが掴んでくれる。

 誰かの温もり。この温もりが有難い。


 今の僕は弱い。ミデリーのように戦うことはできない。僕ではミデリーの仇を討てない。


 悔しい。何て悔しいんだ。

 強くならなきゃ。もっともっと強くならなきゃいけない。


 覚悟は決まった。


 僕はイアウカを討つ。いつか必ず戻ってくる。それまで待っていろよ。


 僕は去っていった、イアウカを睨み続けて。

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