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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
5.イアウカ
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11.幸せ祈るミデリー

――拝啓


――凛として冷たい空気に、風花が美しく輝くこの頃、アリス様にはご清祥のことと存じます。


 あぁ、あの書き出しは、アリスには早かっただろうか。成人前の子供とはいえ、大人の真似事をしたいと思う年頃でもある。最期くらいは大人として扱った方が喜ぶか。


 崩れる石がスローモーションに感じながら、私は笑った。髪が血に濡れたせいでぺったりとくっついてしまう。邪魔だからとポニーテールにしていたが、リボンがなくなってしまった。あれ、お気に入りだったんだけど、まぁいいや。


――貴女がこの手紙を読んでいる頃には、私はおそらく死んでいることでしょう。少し、流行の小説のような書き出しになってしまいましたね。


 おいおいおい。まだ私の突っ込んだ岩が重力に従って落ちている最中だぞ。もう前脚で殴ってきていやがる。

 私は殴られながら、イアウカの前脚に宝剣を刺した。飛ばされてやるもんか。

 剣を軸にして反転。私はイアウカの脚を駆け上がる。


――もし私が生きていれば、この手紙は処分しているため、読んでいるというのなら、そういう事です。


 イアウカが足を上に一度持ち上げ、さっと引いた。

 足場が消えて走れなくなる。


「チ」


 イアウカの口端の傷がなくなっていた。


 治ってんじゃねぇよ。


――さて、本日はこうしてイアウカとの決闘を見ていただき、とても感謝しています。貴女はどうしてこのようなことを、なぜ今なんだ、などと思っていることでしょう。私ならきっと思います。


 どうやら、イアウカは理属性魔法まで使えんのかよ。これで何個目だ。

 いや、何個なんかどうでもいい。問題はそこじゃない。


 錬度だ。数百年の期間の練習結果である。


――私が貴女ほどの年の頃、ランレイグ家最強を目指していました。コングラ・ランレイグ。それが最強の名。調べれば調べる程焦がれてしまった。戦ってみたい、と。同時に、超えたい、と。


 頭を地面に向かた状態で、剣を空へと投げる。そして、手でダイヤの形を作った。

 イアウカの視線が、宝剣へ向いている。何かあると思ったか? 残念。ただ邪魔だから捨てたのさ。


 ダイヤから炎を噴き出した。


――奴はすでに故人です。ならば超えたと判断するためには何をすればいい? 私は考えました。それが今回のイアウカ戦です。


 そういえば、アリスを連れてくるのを忘れていたな。私の活躍を見せられないじゃないか。


 爆発を受けて、私の炎を纏った狼が飛び出してきた。すでに口を開けている。噛みついてくる気か? それでも、魔法か?

 というか、その銀毛、炎も通さねぇのかよ。


――私は勿論勝つつもりで挑みます。しかし、勝てないかもしれません。そう思うと、途端に恐ろしくなり、またワクワクしてしまいました。


 ゾブリと足を歯が貫通した。牙を中心に千切れてしまいそうだ。

 私も理属性魔法を使える。ケイほどではないから、千切れたら元に戻らない。


 落ちてきた宝剣を掴み取り、腕と腹筋だけで振るう。銀毛を切ったが、肉で弾かれた。無茶な体勢だったし、仕方ねェか。


――永らく現れなかった、自分よりも格上の存在。自分が本気を出して戦える相手。私はイアウカの元へと、死にに行く。


 ゴロゴロと地面を転がり、片足で上体を起こす。


 千切れた。もう片足はない。


 それでも諦めない。最後まで抗う。それが生きとし生ける者すべてに与えられた権利だ。権利は行使して初めて持っていていいものだ。


 もう傷が塞がってやがる。


 コングラは凄いな。何年も癒せない傷を創るなんて。


――ごめんなさい、アリス。お母さんらしいことはできなかったね。せめて、この背から何かを感じてほしい。


 我が親友エルなら流石と言ってくれるだろうか。それとも何やってんだ馬鹿、と言うだろうか。

 どちらにしろ、悪態は吐くだろう。自身の遊び相手が一人いなくなってしまうのだから。

 アリスとユーヤだけじゃなくて、アイツとも戦えばよかっただろうか。まぁ、もし戦ったら一週間は続いて、出発が遅れてしまっていただろうな。


――有難う、アリス。貴女が生まれてきてくれてよかった。私はもっと上に挑戦できる。


 我が戦友アイネなら立派だと言ってくれるだろうか。それとも、ざっけんなこら、と言ってくるだろうか。

 どちらにしろ、舌打ちしながら認めてくれるだろう。その淡泊さもアイネらしい。


 ケイには済まないと思っている。すっかり巻き込んでしまった。他国の要人なのに、本当に申し訳ない。

 最近始めて会ったのに、心を読んで勝手に沈んでしまった。面倒なことを押し付けてしまったと思っている。


 反省はしている。でも、後悔はしていない。


 心の中で炎を滾らせる。イアウカも何かを察知したように、こちらを窺い攻撃してこない。

 ハラハラしながら見ていろ。泣くんじゃねぇぞ、観客。じっくりと観劇していけや。


――最後に、貴女の中にいるもう一人の貴女へ。


 ユーヤ。飛び出してくんじゃねぇぞ。これは私の戦いだ。お前なら分からるぞ。お前は私にふざけんなという。お前は自分の思い通りにならないと怒るもんな。

 ありがとよ、エル、アイネ、ユーヤのことを止めてくれて。


 ユーヤ。お前は私の死にざまを見ていろ。それを糧にして、さらに強くなれ。


 アリス。お前は手紙を読んでいるだろう。言葉遣いが違くて驚いているかもしれない。


 私の想いは手紙に綴ったことで全部だ。幸せであれ。


――もっと出していった方がいいと思います。隠しているつもりかもしれませんが、私にはバレバレです。


 イアウカ、申し訳ない。お前の本気を受け止めきれなかった。お前が本気を出せる相手が現れることを望んでいるぜ。な、ユーヤ。

 私は片足で立つ。もう靴は脱いだ。邪魔だからな。


 私は自分で自分の左腕を切る。私の口角は上がったまま。イアウカの目は真ん丸と見開かれている。


 不思議か? こんなことをする奴はいた事がなかったか? なら刮目しろや。これが死を美しく飾ろうとする奴の戦い方だ!


――でも、その貴女もアリスです。今度、貴女の話を聞かせて?


 足の指で回転し、切ったばかりの左手を剣で打つ。左手が炎を纏った。イアウカが目を見開く。

 暗黒魔法を発動させ、私の左手を撃ち落とした。その隙に飛んで距離を詰める。


 暗黒魔法は私の左足を貫いてきた。その太さは恨めしく、私の脚を千切れ飛ばした。


 両足はもうない。暗黒魔法の威力のせいかおかげか、今の私は空中にいる。

 背筋力、腹筋力、腕力を使って、宝剣を投げつけた。宝剣は恐ろしい速度でくるくると回り、左手で注意を反らされた狼の右眼を切る。その右眼に光が集約される。これが理属性魔法を集中的に使った結果か。


 私は右手で地面を叩きながら爆発させ、急接近する。銀狼が気付き、こちらを迎撃しようと右前脚を振るう。


 残念。それが欲しかった。


 私はイアウカの右前脚に噛みつく。

 イアウカは嫌がるように足を振るう。離さない。

 イアウカは嫌がるように地面に叩きつける。離さない。

 イアウカは嫌がるように魔法をぶつけてくる。離さない。


 炎を纏い、決して離れようとしない私に恐怖している。分かる。分かってくるぞ、イアウカ。この筋肉の収縮は、恐怖による引き攣りだ。


 暗黒魔法が私の身体を貫く。離さないぞ、イアウカ。これが私の矜持。命の終わりに咲かせる徒桜だ!


 イアウカに炎の極致を見せてやる。限界を突破し、体が炎に耐えられない。自分が出した炎のくせして、自分が耐えられないなんて滑稽だ。


 なぁ、イアウカ?


――幸多く、末永くご繁栄をお祈り申し上げます。






 どこか、遠くの屋敷で、少女が一筋の涙を流した。

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