7.船に乗るユーヤ
ヲイテス王国の中でもユチェ製の馬車で進む。揺れが少なく、腰が疲れない。それでも僕は体を動かしたいと思ってしまう。鈍ってしまうからな。
休憩や滞在中、僕は剣を振るった。自分の体が喜んでいる。常に何もさせてもらえない期間があるなんて初めてだ。疲れが溜まってしまうかもしてないが、強くなるためには必要なことだ。一日だって練習を欠かしたくない。強くなりたい。
半月後、馬車は港に来ていた。匂いがしてくる。潮の匂いってやつだ。
海か。近くにまで行ったことはあったが、用があってくるのは初めてだ。
「おい、ミデリー」
「ん? どうした、ケイ」
「まさか、ここから船で行くなんて言わねぇよなァ!?」
「言うぞ。船で行く。海を渡るんだからな」
「ふざけんな、マジで」
ケイ、キレる!
でも何でキレているんだ? さっぱり分からない。何かが気に食わないらしい。船が怖いのか、水が怖いのか。
「僕が怖いのは船でも水でもない! 揺れだ! 僕はあれが苦手なんだ。凄い酔っちゃうんだ!」
「上に来るまではどうだった?」
「……凄い吐いたよ」
指をチョンチョンと、少し恥ずかしそうに話している。
「つまりあれか? 自分で予想できない揺れに弱いってことか?」
「そーの通ーり!」
ケイはビシッと指を差して力強く言った。
「じゃあ、手で漕ぐか?」
「僕の体力筋力じゃ無理」
まぁそうだろうな。どこまで漕がなきゃいけないのか知らないが、半分も行けずにケイは力尽きるだろう。そんな予想、もとい確信がある。
「間違っちゃないけど、確信までいかれると反発したくなるよね」
「反発したところでお前じゃ無理だろ?」
エルがケイの頬をモチモチさせながらツッコんだ。
「とりあえず乗るぞ」
ミデリーの掛け声で皆が船に乗り込んだ。
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五分後、ケイはダウンしていた。
「うぐ、おぐ」
もう顔を真っ青にしている。引き攣った笑顔のまま僕を遠ざけようとする。
不意に込み上げてきた嘔吐感を押さえるように、口元を手で覆う。
呻き声が口の端から零れ、それでも外に吐き出そうとはしない。
何とか押しとどめたのか、乱暴に口元を布で覆い、青白い顔つきでケイは荒い息を吐く。何か弱弱しくなっている。このまま衰弱してしまいそうだ。
どうにかしてやりたい。しかし、やれることがない。焦燥感に駆られる。
理由の分かり切った不安を、解決策の見えないまま放置するしかない無力さ。何もできない自分。
「僕、どうすりゃあいいんだ」
「エルに任せておけ。お前にできることはアタシと一緒に船内に行って見えないところまで移動することだ」
アイネが僕の手首を掴んでくる。なぜ移動しなければならないんだ。心配だから傍にいたいのに。
「ユーヤ、そういうことだ。引っ込んでいてくれ」
「でも」
「……頼む」
エルから懇願され、僕は反発する。それでもケイは受け入れなかった。涙目で頼まれてしまってはそうせざるを得ない。
「分かったよ……」
僕は船内へと入っていった。
「どうした、ユーヤ。少し沈んでいるように見えるが」
船の運転をしているミデリーが声を掛けてきた。
「いや、ケイが凄い酔っていてさ、何とかならないかな」
「ポルクスの技術じゃ何とかできねぇのか?」
「フーム。まぁ、相談してみるしかないか」
「……絶対だぞ」
急にトーンが下がった。室温も少し下がったか?
「ま、この船もユチェに作らせたシステムを使ってんだけどな」
「何とかできねぇのか?」
「私はアイツの頭を理解できない。断言はしないぞ」
アイネは少し瞼を落とし、納得したように下がった。
「ユーヤ、上陸するぞ」
その言葉通り、三分後に船は陸地に着いた。




