表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
1.ミデリー・ランレイグ
6/145

5.三日寝過ごしたユーヤ

 目が覚めた。自然と、目が覚めた。

 いや、自然以外の眼の覚ましたをしたことがないから、当たり前か。自然以外の起き方があったら教えてほしい。

 ただ、いつも十分寝たからこそ起きるのだが、今回は違う。

 暑かったのだ。まだ時期としては春のはずだが、夏のように暑い。行商人は、春はちょうどいい気温だから過ごしやすい、と言っていたのに、暑くて敵わない。

 暑いうえに蒸している。蒸して暑いのだ。


 いや、蒸しているのは僕の周りだけだ。僕が汗を掻いているからだ。これが蒸し暑さに貢献している。

 眠っていた時に出てきた汗のせいで、体がびっしょり。ひどく掻いたせいで、体がベタベタ。気持ち悪い。


 ヨシ、水浴びをしよう。


 そうと決まればとっとと寝床から出て、森の中の沢まで行かなきゃ。


「おっと」


 寝床から出て立った時僕は思わずふらついた。そのまま壁に手を着いた。ずっと横になっていたからか、若干貧血気味だ。

 水浴びの前に、コップ一杯程度の水を飲んだ方がいいだろうか? 汗を凄く掻いたわけだしな。

 聞きかじっただけの情報だが、塩分が足りないと、人は倒れてしまうらしい。何かよく分からないが、塩分が人体にとって重要なものなのかもしれない。


 ぼーっとする頭で剣を掴もうとして、失敗した。手が空振りしたのだ。


 目線を向ける。剣がない。あれ? 剣がない? 何でだ? えっと、あ、そうだ。剣は壊れたんだった。


 僕は後頭部を掻きながら、隣に立てかけていた剣を手に取る。鍛錬用の、刃が潰されている剣だ。沢までの道には強い奴がそんなに出てこないし、心配はないだろう。


 家を出ると、村は静かだった。もちろん人はいるし、その間に会話もある。しかし、それらは喧騒と呼べるものではない。日常の風景ではある。この違和感は一体なんだ?

 村の違和感の正体に気づけないまま、僕は森に入った。


 僕はない頭で考える。この違和感は一体なんだ?

 そこでふと気づいた。あれ? 行商人達がいなかった?


 売り物を売り尽くしてしまったから、早めに帰ったのだろうか。いや、いつも売り切れずに次の村でも商売をするのだから、あり得ない。他にあるとすればなんだ? 用事でもあったか?

 待てよ。そもそも、だ。今っていつだ?


 行商人がいつも滞在するのはいつも七日間だ。僕は到着から四日目に巨木のモンスターを倒しに出かけた。行くのに半日かかったから、倒してから帰ってきたのはもっとかかったはず。おそらく五日目に帰ってきただろう。寝て起きたのだから、今は六日目?


 ……いや、以前の僕を思い出せ。何か大きなオーガを倒した時は丸二日間は眠っていたじゃないか。あの時の経験を活かせ。僕はおそらく、二、三日は寝ていた?


「マジかぁ」


 自然と声が出た。

 行商人は通常通り帰った、ということか? ということは、次に彼等が来るのは二か月後?


 マズイな。


 食料とかは最悪狩りをすればなんとかなるが、衣類や剣とかの消耗品はどうしようもない。後二か月は、この少し穴の開きそうになっている服と、刃が潰されている剣でどうにかするしかないということだ。え、マジで言ってる?

 しばらくは強敵との戦闘はお預けかな?


 そもそもこの二か月後に取り返すことを考えるのであれば、今から売り物を蓄えておく必要がある。

 食料は保存しにくいから、売り物に向かないだろう。できても干し肉だ。……塩が足りないから無理か。

 あと一般的なのは、編み物か。まぁ、編み物ができれば、自分の服を先に直している。


 出来ることがあるとすれば、モンスターの素材集めか。あの巨木モンスターを木材にして売れば、高くならないだろうか。


「……後で見に行ってみるか」


 僕が呟く頃には、既に沢に辿り着いていた。


 水を両手で掬う。水を通して僕の手の皺が見えた。とても綺麗な証拠だ。

 ズズズと音を立てて水を飲む。美味しい。体の隅々にまで行き渡るような感覚。いい。もう一口飲んでおこう。


 先程手に入れたベリーを口に含む。酸味も体に染み渡る。


 よし、水浴びをしよう。


 僕は服を脱ぎ始めた。そして、素っ裸になると、水に入っていく。


「気持ちいいぃ~~」


 自然に身を任せて体を浮かせる。寝汗が溜まっていた背中をボリボリと掻く。爪の間に垢が凄く入ってきた。


「洗体布も買った方がいいのかなぁ」


 水の中へと疲れが融けていくように感じる。気持ちいい。

 水の中でバシャバシャと回転したり、泳いだり、潜ったり、体中の垢を落としたりしていく。世の中には垢すりとかいう職業がいるらしい。体験してみたいものだ。

 そろそろ上がるか。僕はぼんやりとそう思い、陸に上がった。


 大きめな葉を布代わりにして、体を拭く。少し体が軽くなった気がする。これが垢の重さか。

 下着を身に着けたところで、視線を感じた。


「ん?」


 僕はシャツをひったくり、腰を落としたまま叢を見る。


「申し訳ございません。驚かしてしまいましたか?」

「いや、驚いてはいない。警戒しているだけだ」


 草を掻き分けて現れたのは、一人のエルフだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ