6.馬鹿にされるユーヤ
「っぱ凄ェな、レイベルス国の技術って」
ケイが馬車の椅子を数度押して天井を見る。
「レイベルスっていうか、ポルクスっていうか、ユチェの技術だけどな」
「一人なの?」
「弟のアーノルドとか妹のミィチャレスとかが手伝っているって聞いちゃいるが、基本アイデア出汁は一人でやっているって話だぜ」
「ヤッバ。流石<非人類>」
「<非人類>」
ユチェの名は知っている。会ったこともある。あの人、口がかなり回る変態という印象を受けたが、非人類とまでの印象はないな。
「どのあたりが非人類なんだ、あの人」
「そう言えばユーヤは会ったことあるんだったな」
「ユチェは発想が天才的というか突飛というか。誰も理解できねぇんだ。弟妹もついていくのに必死らしい」
「ついては行けんだな」
誰もが青髪の少女を思い浮かべる。どんな姿を想像しているのか分からないが、皆苦い顔をしている。何だ?
そんなお話で暇をつぶしたり、三人の誰かと戦ったりして過ごしていた。
十日後、僕たちはヲイテス王国の国境に来ていた。
「あ、貴方様はミデリー・ランレイグ様ですね!」
ヲイテスの兵が冷や汗を垂らしながら証明書を確認している。確認していない兵さえもミデリーの姿と名を知っているようだ。
「えっと、こちらはえ!? め、<冥府の紫炎>!?」
「あん? あぁ、久し振りに聞いたな、その名」
何だ、その名、冥府の紫炎って。僕は聞いたことがない。
「アイネの二つ名だよ。紫の鱗と紫の炎を吐くから付けられたんだ。見た目も地獄の住民っぽいじゃん」
「地獄の住民も見たことないんだけど」
「僕もないよ~、イメージイメージ」
ケイが教えてくれる。しかし、想像できないため、イメージ映像は真っ黒のままだ。
「つ、次は、なっ!? ち、<血煙の凶刃>!?」
「そんな二つ名だっけ。戦闘馬鹿とか赤霧の刃刃とか、そんなもんだった気がする」
三つとも聞いたことがない。血煙の凶刃。戦闘馬鹿。赤霧の刃刃。二つ目は分かる。戦闘馬鹿は体感した。分かる。残り二つは何だ?
「戦う時に自分の血を使うんだ。その血が煙とか霧とかに見えるから付けられたんだ」
「その戦いをちゃんと見てみたいな」
「超ガチの本気の戦い方だからな~。ユーヤが神話級になる必要があるかな」
「聞いたことある分類だけど、詳しくは覚えてないや」
「また今度かな。めっちゃ強いくらいの認識でいいけど」
ケイは丁寧に答えてくれる。有難い。
ケイはニコッと笑い、手を握ってくれた。
「続いては、そっちの子供か。何々? え? <神眼の賢者>!? こんな子供が!?」
「子供じゃねぇぞ。僕はこれでも二百歳を超えてんだぜ」
二百歳超えていたんだ。
にしても、ここまで三人とも二つ名を持っているんだな。きっとこの調子ならミデリーも二つ名を持っているのだろう。
「まさか、こっちも」
兵士が驚きの顔のままこっちを見てくる。ごめん。僕は何もないんだ。二つ名とか聞いたことないし。
「……」
「……」
兵士は僕の顔とミデリーが書いた証明書を見比べている。
「……ただのガキ?」
「普通のガキだな」
「……」
いや、そうだよ? 何か疑わても困るんだけど。
確認中に飽きたのか、エルとアイネはどこかに行ってしまった。ミデリーは馬車の受け取りに出掛けた。
「何だ、ただのガキじゃねぇか」
「こんなに女に囲まれて、引っ張ってもらっちゃってよ」
成る程。これが超実力主義国のヲイテスか。
ギャハハと笑っている。虎がいないから強気になっているようだ。ケイがいるのはいいのだろうか。
ギリと歯が鳴り、ギリギリと拳が鳴る。
「ユーヤ~、飴ちゃん舐める?」
ケイが肩を叩いて振り向かせた。ケイは舌先に丸い飴を乗せて、コロコロと転がしている。飴を指している。え? 舐めろって? 人が口にしたものはちょっと。
シュンとしたケイはそのまま飴を口の中に収めた。
「ユーヤ」
「ん?」
「審査が終わったみたいだし、早く行こうぜ」
ケイは僕の手を取ると、さっさと歩きだした。兵達はニヤニヤしながら見送ってくる。
イラっとする。ぶん殴ってやりたい。
「殴らない方がいいよ。煽りに乗ったら負けだぜ」
「……何でだ? 言い負けてんじゃないか」
「戦いに誘われているだけで、ユーヤはまだ立っていないから、勝負にすらなっていないよ」
そういうものなのか。だとしても、心はもやもやする。僕は負けだと思ってしまう。
「あれに乗っちゃ駄目だよ。強くなりたいなら、なおのことね」
「それってどういう意味?」
「煽りっていうのは弱者の戦い方さ。弱い奴は強者を煽って行動を抑制させる。怒りは動きを単調にするからね。分かりやすい動きだから対処しやすい。僕もよくやる手だよ。こんな見た目だからね」
決め顔をしながら、ケイが言い切った。
「成る程。いわゆる精神攻撃ってやつか」
「そゆことだね」
カッコイイな。ケイは達観していると言えばいいのか、こういう時頼りになる。
ケイは弱い。だからこそ、知識を付けて強い者と渡り合っている。総合的にいえば強いのだ。
物知りで、精神が大人で、成熟している。自分が出来ることできないことを理解している。流石だ。
カッコイイし、憧れる。ただ強いだけじゃない。カッコイイ強さだ。生きる強さだ。
ケイの耳が真っ赤になっている。暑いのだろうか。
「いたぜ、ミデリー達だ」
僕達はミデリーの元へと向かった。




