4.少しだけでも届いたユーヤ
ミデリーは気絶したアリスを、少し慈しみながら見下ろしている。
「ユーヤ」
「分かっている。やるんだろ、僕とも」
「あぁ」
「ォ、ォォオオーーーーーーッ!!」
咆哮し気合を入れる。
時間をかけたら駄目だ。この空気に飲まれてしまう。
僕は猛然と突っ走る。
鋼と鋼が交差する。僕の一撃をミデリーは鋼鉄製の針で受け止めた。何だ、その武器は。僕の攻撃をその針で受け続ける。その音は女性の悲鳴のよう。
「初めて会った時と比べてだいぶ強くなったんじゃないか?」
踊るように身を翻し、上下左右縦横無尽、軌道を選ばずに刃の潰れた長剣を閃かせる。しかし、いかなる修業の賜物か才能か、威力のあるはずの一撃をすべて受け、往なされてしまう。
文字通り神速の振りで鋼鉄製の針が振られる。攻撃に転じてこない。手を抜かれている。余計頭に血が上る。
神話の域に達している超絶技巧。常外の技量だ。それに対して僕も超絶技巧を繰り出す。
恐るべきはミデリーの眼力だ。彼女は雰囲気から感じ取ることがあるが、基本目で見てからでも対応されてしまっている。
一度見せてしまった技は二度と通じない。彼女は最小限の見躱しで軌道を逃れ、返礼の蹴りが飛んでくる。
蹴りが胸に刺さった。
「ゴフ」
ほらやっぱり、息ができない。
ミデリーは本当に流石だ。この技量は尊敬に値する。卓越した技、圧倒的な戦闘勘、身体能力、肉体制御。これらすべてを高水準に兼ね備えているミデリーは、選ばれし強者だ。
「そろそろ行くぞ」
嗅覚に滑り込んでくるのは炎の香り。ミデリーが魔法を解放した。僕は一瞬だけ意識を奪われる。
「余所見かい?」
その隙に距離を詰められた。余所見の代償が命? 強欲だろ、ミデリー。
いつの間にか鋼鉄製の針を手放していたようで、そこには掌があった。
神速の張り手が顔を打ち、鼻から血が噴出する。そのまま顔を掴まれ、簡単に持ち上げられた。
ミデリーの手首を掴み確信する。あ、こりゃ無理だ。離させるなんてできない。
僕は全身に力を入れ、全力で耐えようとする。ミデリーの頭上を越える軌道で回され、地面に叩きつけられた。
口から空気が出ていく。肺が喘いでいる。意識が落ちそうだ。視界の端が暗転していく。
僕は空気が足りない状態だが、ゴロゴロと転がって立ち上がった。
くらくらとしながらでも、僕は長剣を振るう。それよりも速くミデリーの裏拳が頬を叩いた。
口内から歯が飛んでいる。
駄目だ。やはり届かない。
……やはり? いや、何だ、それは。いや、それはないだろ。僕はミデリーを超えるんだろ? やはり、じゃねぇだろ! 何で届かねぇんだ、だろ!
自分の後ろ向きな考えに反吐が出る。
体が痛い。血反吐が出る。それでも届かせる。この相手の圧倒さには心が折れそうだ。それでも。それでも! それでも!!
これまでは、このまま倒れて終わってしまっていただろう。しかし、僕の脚は地を踏んだ。
「お?」
僕はブチブチと筋繊維を傷めつけながら、剣を振るう。
ミデリーは驚いたように目を見開いた。
僕の剣がミデリーの脳天に直撃する。その直後、直撃の余韻を残して、感触が消えた。
ミデリーは剣の速度に合わせて、前方へと回転したのだ。彼女はそのまま僕の頭に踵落としを叩き込む。
僕は一瞬にして意識を奪われた。




