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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
5.イアウカ
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4.少しだけでも届いたユーヤ

 ミデリーは気絶したアリスを、少し慈しみながら見下ろしている。


「ユーヤ」

「分かっている。やるんだろ、僕とも」

「あぁ」

「ォ、ォォオオーーーーーーッ!!」


 咆哮し気合を入れる。

 時間をかけたら駄目だ。この空気に飲まれてしまう。


 僕は猛然と突っ走る。

 鋼と鋼が交差する。僕の一撃をミデリーは鋼鉄製の針で受け止めた。何だ、その武器は。僕の攻撃をその針で受け続ける。その音は女性の悲鳴のよう。


「初めて会った時と比べてだいぶ強くなったんじゃないか?」


 踊るように身を翻し、上下左右縦横無尽、軌道を選ばずに刃の潰れた長剣を閃かせる。しかし、いかなる修業の賜物か才能か、威力のあるはずの一撃をすべて受け、往なされてしまう。

 文字通り神速の振りで鋼鉄製の針が振られる。攻撃に転じてこない。手を抜かれている。余計頭に血が上る。

 神話の域に達している超絶技巧。常外の技量だ。それに対して僕も超絶技巧を繰り出す。


 恐るべきはミデリーの眼力だ。彼女は雰囲気から感じ取ることがあるが、基本目で見てからでも対応されてしまっている。

 一度見せてしまった技は二度と通じない。彼女は最小限の見躱しで軌道を逃れ、返礼の蹴りが飛んでくる。

 蹴りが胸に刺さった。


「ゴフ」


 ほらやっぱり、息ができない。


 ミデリーは本当に流石だ。この技量は尊敬に値する。卓越した技、圧倒的な戦闘勘、身体能力、肉体制御。これらすべてを高水準に兼ね備えているミデリーは、選ばれし強者だ。


「そろそろ行くぞ」


 嗅覚に滑り込んでくるのは炎の香り。ミデリーが魔法を解放した。僕は一瞬だけ意識を奪われる。


「余所見かい?」


 その隙に距離を詰められた。余所見の代償が命? 強欲だろ、ミデリー。

 いつの間にか鋼鉄製の針を手放していたようで、そこには掌があった。


 神速の張り手が顔を打ち、鼻から血が噴出する。そのまま顔を掴まれ、簡単に持ち上げられた。

 ミデリーの手首を掴み確信する。あ、こりゃ無理だ。離させるなんてできない。


 僕は全身に力を入れ、全力で耐えようとする。ミデリーの頭上を越える軌道で回され、地面に叩きつけられた。

 口から空気が出ていく。肺が喘いでいる。意識が落ちそうだ。視界の端が暗転していく。


 僕は空気が足りない状態だが、ゴロゴロと転がって立ち上がった。

 くらくらとしながらでも、僕は長剣を振るう。それよりも速くミデリーの裏拳が頬を叩いた。


 口内から歯が飛んでいる。


 駄目だ。やはり届かない。


 ……やはり? いや、何だ、それは。いや、それはないだろ。僕はミデリーを超えるんだろ? やはり、じゃねぇだろ! 何で届かねぇんだ、だろ!


 自分の後ろ向きな考えに反吐が出る。


 体が痛い。血反吐が出る。それでも届かせる。この相手の圧倒さには心が折れそうだ。それでも。それでも! それでも!!

 これまでは、このまま倒れて終わってしまっていただろう。しかし、僕の脚は地を踏んだ。


「お?」


 僕はブチブチと筋繊維を傷めつけながら、剣を振るう。

 ミデリーは驚いたように目を見開いた。


 僕の剣がミデリーの脳天に直撃する。その直後、直撃の余韻を残して、感触が消えた。


 ミデリーは剣の速度に合わせて、前方へと回転したのだ。彼女はそのまま僕の頭に踵落としを叩き込む。

 僕は一瞬にして意識を奪われた。

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