3.ミデリーを迎えるユーヤ
「別に三大モンスターのどれの縄張りが一番近いとかはいいんだけどさ、結局、ミデリーはどれかと戦おうとしているのか?」
「割と確率高いと思うよ」
僕の疑問にケイが答えてくれる。
「ま、僕は件のミデリーを知らないんだけどね」
ケイは舌を出し、手を後頭部へやり、片目を瞑り、もう片目は明後日の方を向いている。初めて会った時にもしていたが、その動作は一体何の意味を持っているんだ?
「これはね、テヘペロといって、とても由緒ある動作なんだぜ」
「エル」
「私は知らねぇ」
「と、言っているが?」
「エルを使うなんて卑怯だぞ」
いや、そっちが嘘ついたんだろ。
「……テヘペロは照れ笑いとか誤魔化し笑いとかの意味で使う言葉だよ。テヘって笑って、ペロっと舌を出すんだ。ミスとか失敗したときとかに、周囲に愛嬌を振りまくニュアンスで使う軽い謝罪の動作さ。おどけていると言っていい」
「無駄に時間を使ったな」
おふざけに付き合ってしまった。
「で、ミデリーが戦うと思う理由は?」
「あいつはよくコングラを超えてやるって言っていたからな」
「コングラ?」
「ランレイグ家歴代最強って言われている当主さ」
エルが出したコングラの名を説明してくれたのはミデリーだった。
「よー、ミデリー、久し振りじゃん」
「あぁ、久し振りだな、アイネ」
アイネが手を振ると、ミデリーも手を振って返した。
「アリスはいるかい?」
「あっちの邸宅だ」
「あ、お母様。どうしたの?」
「アリス。今まで放置しちゃってごめんね」
「ん? どうしたの、急に」
本当にどうしたのだろう。そもそも放置したのはミデリーだ。いまさら何を言っているのだろうか。
ケイが口を挟んでこないということは本物のミデリーなのだろう。
「アリス。私と立ち会ってみないか」
反応は劇的だった。エル、アイネさえも驚愕している。普段のミデリーからでは考えられないのだろう。
「え、いいの」
アリスはアリスでキョトンとしている。さっき僕と戦ったばかりだが、大丈夫なのだろうか。
「あぁ、いいぞ」
「いつも渋っていたのに?」
「あぁ、いいぞ」
アリスはケイを見る。ケイはアリスの心を読み取ったのか、ゆっくりと頷いた。何のやり取りがあったのか分からないが、アリスは何かに納得したらしい。
アリスは模造の短剣を構えた。ミデリーはただ立っている。それだけだというのに、圧倒してくる威圧感を放っている。
アリスはどう攻めようかと悩んでいる。なぜか隙が見えない。隙がありそうな立ち方をしていそうなのに。
「ユーヤ、お前ならどう攻める?」
それを今考えているんだが?
「攻めあぐねている。皆ならどうすんの?」
「僕は全力で逃げるね。あれと戦うのは得策じゃないし、戦える奴に任せた方がいい」
納得だ。そもそもケイは非戦闘職である。戦う意味がない。
「アタシは真正面から叩き潰す」
「私もだな」
二人揃って、考えるよりも体が先に動いてしまうタイプなのか。いや、考えた結果の行動なのか?
「考えたうえで、暴力によって何とかなるのがいけない」
「何事も、困ったときは暴力さ」
「間違った格言だな。いつか、挨拶したら死んだとか言い出しそう。でも、そうか。強者は真正面から捻り潰すもんな」
「絡め手を使っていいと思うんだけど……」
ケイが何か言ったが、僕は深く考えることを止めた。
「アリス。来ないなら、私から行こう」
「フ!!」
実質の死刑宣告。アリスは行動せざるを得なかった。
分かる。分かるぞ、アリス。でも、それはきっと悪手だ。
ミデリーは前へ倒れるように走り出し、アリスが反応するよりも前に攻撃を加えた。アリスも咄嗟に短剣で防ごうとするが、間に合わない。
ミデリーの蹴りがアリスの胸に刺さる。あれは痛い。息ができなくなる。
アリスは短剣を落とし、胸を押さえて膝を着いた。瞳が細かく揺れている。
あれは駄目だ。もう堕ちる。そう思った直後、アリスは倒れた。
終わってみれば瞬殺だった。かなりの差があるのは明白。アリスに追いつかれつつある僕が、ミデリーを何とか出来るのか?




