2.ミデリーを心配するユーヤ
横から薙がれる短剣に対して、僕は左腕を差し出した。
真っ直ぐに立てた左腕に短剣が直撃する。
僕の腕がぐしゃりと曲がる。アリスが目を見開かれる。その反応が有難い。
僕は動きの止まったアリスの脚を刈るように剣を薙ぐ。長剣が足に当たり、軸をずらした。足が地を滑り、彼女の体が倒れそうになる。
アリスは倒れる勢いを利用して、そのままゴロゴロと転がった。それを僕が見逃すはずがない。
僕は立ち上がろうとするアリスの前に、刃を潰した剣を突き付けた。
アリスはそれを見て、一度目を見開き、すぐに目を閉じた。そして少女は全身から力を抜いて地面に寝転がる。
「まだ届かないかぁ」
少し嬉しそうにぼやいた。
少女は目標がはっきりしているのだろう。その目標を達成するまでの苦労も楽しめるタイプなのだろう。
母親であるミデリーのことを抜くのもそう遠くないな。そう予想できる。
そういえば。
「最近ミデリーを見ていないな。いつもはアリスの様子を見に、一瞬間に一、二回は見に来るだろ? もう一月は見ていないぞ」
アリスは横になりながら、うーんと考える。
「お母様は最近、忙しそうにしているよ。収穫祭の時、実家に帰ったけど、何か屋敷の出入りが多かったんだよね」
「戦争の準備かな?」
アリスの発言にエルが反応する。
「戦争?」
「武器とか防具とかの出入りだな。そのせいで屋敷には人や物の出入りが過剰に多くなる」
「成る程」
「どうだろ。武器とか出入りしていたかなぁ」
アリスは自身の記憶を探っているようだが、心当たりがないようだ。
「こういう時は金物相場とか鉄製品の価値とかを見るべきだな。武器とか防具とかを仕入れているから、価値価格が高騰することになる。市場を気にした方がいいぞ」
「……」
「何だよ」
アイネがとてもまじめなことを言うとは思わなかったため、言葉が出てこない。
「ま、まぁでも、お母様は何かの準備をされているのは確実なんだよね。あの準備の量は」
「アリスがそう感じているならそうなんだろうな」
アリスの予想に、エルが後押しする。
「アタシ等とも互角以上に渡り合えるような奴だぞ。そんなに準備が必要なのか? 何と戦う気だ? まさか」
「そのまさかはあり得るね」
「ケイもそう思うか」
「まさか、何?」
分からない。上位勢の話についていけない。一体何の話をしているのだ?
「もしかして、トップ?」
「それしかねぇだろ」
「シャイガイとか覇王とかいるだろ」
また分からない話だ。トップ? シャイガイ? 覇王? 誰の何の話だ?
「確かにお母様が本気でまともに戦える相手なんて、ほとんどいないからね」
アリスの声が少し寂しそうだ。
「なぁ、クライネ」
「はい、どうしましたか?」
「トップとかシャイガイとか覇王とかって何?」
「モンスターの名前です。トップ、シャイガイ、覇王の三頭で、三大モンスターと呼ばれています。モンスターの頂点にいる三頭です」
僕は頭の中で姿を想像する。名前だけじゃ思い浮かばないな。
アリスがメリッサに起こされて家に入っていった。かなり汚されてしまったので、水浴びでもやりに行ったのだろう。
「トップこと<頂点>と称されるモンスター、その名はイアウカ」
「いあうか?」
「イアウカは月明かりを反射する綺麗な銀の毛並みを持つ大狼だと言われています」
「言われている?」
「私も本で読んだ程度の知識ですので」
「アタシは見たことあるけど、本当に綺麗な銀狼だぜ。敵うとは思えなかったぜ」
どれくらいの大きさか分からないが、美しい銀狼を思い浮かべる。強そうだな。
「続いて、シャイガイこと<究極のシャイボーイ>、その名はコイショブン」
「こいしょぶん?」
「コイショブンはすべてを飲み込むような深い黒色の肌を持つオタマジャクシだと言われています」
「こっちも見たことないのか」
「ないですね。申し訳ありません」
「ちな、アタシもないぞ」
「私もだ」
「僕は魔眼を使ってみたことあるよ。左目に疵をつけられた痕があったね。目立たないくらいだけど。体は超でかい。マジ体長200mくらいある」
「デッカ」
想像しようとするが、うまくいかない。あの巨木モンスターでさえ10mしかない。それが二十体分? 想像できねー。
「覇王こと<天空の覇者>、その名はアガースドロント」
「あがーすどろんと?」
「アガースドロントは金属光沢のある黒色かつ鋼鉄の体を持つ巨大な鳥だと言われています」
「アガースドロントは空を飛んでいる分、この三頭の中じゃ一番目撃情報がある」
「じゃあ、この近くにいるのか?」
「いないよ。覇王の生息域、というか縄張り? それがこの近くじゃないんだ」
「じゃあ、どこに?」
「海の向こうだな。多分一番近いところにいるのはイアウカかな?」
「どうだろ。場合によってはコイショブンの方が近いんじゃない?」
上位勢が話し合っているが、やはり理解できない。知識があるかないかでここまで変わるのだな。感心しちまうな。




