8.技術力の高さに驚くケイ
酒。
それは酒精が含まれる飲料の総称だ。
酒は人類史の中でも最古から存在している向精神薬だ。少量の酒であれば認知能力が向上し、食欲だって増進する。僕にとって一番重要な効能として、ストレスの解消がある。ほろ酔い程度であれば、行動抑制が緩和されてストレスが下がる。
僕は手に持っている酒を口につける。
「おや、坊ちゃん、一人旅かい?」
おい、顔を覗き込むな。無視できないじゃないか。あと、僕は坊ちゃんじゃなくて嬢ちゃんだ。……嬢ちゃんって歳でもないか。酒飲んでいる時点で気付け、四十三歳。
「お客さ~ん、ヒッパクト領南西行きで~す。行きたい方はお越しくださ~~い!」
御者が呼びかける。僕の向かう場所へ行く馬車じゃないか。
僕は荷物を掴み、立ち上がる。ほろ酔い状態で僕は馬車に乗った。
数分後、馬車に客が乗ってくる。僕の他に乗っている客は四人。馬車に必要な御者、左手を失くして傭兵を引退せざるを得なかった青年、腰の曲がったお婆ちゃんと手を繋いでいる女児。
何も問題がない面子であることを確認し、馬車に背を預ける。ふとそこで気付いた。
「あれ~? 馬車が動いていないのに、景色が動いてる~~~?」
「うん? 馬車動いてるよ、お兄ちゃん」
「うへぇ~~、マジか。この僕の目を欺くなんて、何ちゅー凄い技術力だ。後、僕は自分のことを僕って呼んでいるんだけどさ、お兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんだからね。お嬢ちゃん」
僕の疑問に対して答えてくれたのは女児だった。しかし、女児にお兄ちゃん呼びされてしまうとは。さっきの坊ちゃん呼びといい、今回の呼び方といい、僕ってそんなに男の子っぽいかな?
「お兄さん、澄まし顔しているけど、内心ビクッてしたでしょ。僕のこと男の子って思ってた?」
「っ!? い、いいや! そういえばこの馬車の椅子、もとい馬車そのものはポルクス家の技術力だそうだ」
話を逸らしたな。
しかし、ポルクス家の技術力か。凄いな。揺れが少ない。もしこれが自国マレットスの技術で再現したのならば、揺れがひどくてまた吐いていただろう。
「今の当主ってユチェ様だっけ」
「そうだな。私は昔、この手がまだあった頃にユチェ様の依頼を受けたことがある」
「へぇ、何したの?」
「凍てつく災いの討伐さ」
「上級じゃん。よく倒せたね」
「私以外にも十数、いや数十人の傭兵がいたからな。まぁ、それでも何人かは……おっと、子供に聞かせる話じゃないな」
「確かにね。ま、僕の年齢は三桁いっているから子供じゃないけど」
「「え」」
傭兵だけでなく女児まで驚いた。背か? 胸か? お前等どこで判断しやがった。
「ん?」
「……どうした?」
「……これはモンスターかな?」
「え!?」
不用意な発言をしてしまったと後悔したくなる。モンスターの移動軌道はこの馬車に重ならない。別に話さなくてもよかったな。
「まぁ、ここまでは来ないかな。安心していいんじゃない?」
千里眼でモンスターの様子を見る。このままなら会わないな。
見ていると、モンスターの頭が何かに打ち抜かれた。これは血かな? やったのは……エルか。血を魔力で硬くして撃ったようだ。
うん。どうやらこっちには来ないな。
あれ? これバレてね? エルにここに来たことガッツリ分かられてんじゃん。
じゃあこれはあれだな。僕がいったら待っていてくれるだろうな。
「あ、お嬢ちゃん、甘味いる?」
僕は荷物から綺麗にラッピングされたフルーツタルトを取り出した。女児が目を輝かせる。お婆ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「本当に申し訳ありません。良いんですか?」
「いいよいいよ。僕はまだ待っているからね。生のフルーツを使っているからね、すぐに食べないと痛んじゃうのもあるよ」
「ありがと、お姉ちゃん!」
元気よくお礼を言う女児に頬が緩む。こうしてみると子供が欲しくなる。ま、僕と一種にいてくれるやつなんか、エルくらいしかいないから無理だろうな。




