6.乗り気なクン
女獣人はもう見当たらない。僕は正確ではないが、気配読みができる。しかし、それでもどこにいるのか感じ取れない。
気配読みが出来る範囲からすでに逃げ切っているのか、気配を感じさせないようにしているのか。どちらにせよ相当な実力者だろう。
今は女獣人よりも精霊のクンの方だ。とっととおつかいを終わらせよう。
さて、現実に戻ってこよう。僕は茫然自失とした様子で精霊の郷のことを見る。僕の様子を確認している者がいないため、変化は起きない。変化を起こすのは自分の手だけだ。
「飯だ、酒だ、どんどんじゃんじゃん持って来い! 収穫したモンに感謝だ!」
音頭を取る精霊のクンが声をは放った瞬間、精霊とエルフが一層盛り上がりを見せ、森の木々がビリビリと震えている。
「あれ? ユーヤじゃん。どったん? ほら、お前も呑めよ」
「クンよ。あまりイジメてやるものではない。聞いた話であるが、人間族は15になるまで酒類は摂取しないと聞いた。この者の年は分からぬが、呑ません方がいいだろう」
とても美しいエルフだ、緑がかった金髪がこの森に映え、若干光ってさえ見える。
「済まんな、少年」
「いや、クンはいつもこんな感じだろ。初対面でもこんな感じだったし」
「あぁ、そちらの話ではない。クンについては私も諦めている。私が言っているのは私クラリスの娘、クライネのことだ。世話になっているね」
「いや、僕の方が世話になっているよ」
「ほう、あれが家事を覚えたか。随分と変わったな」
クラリスが機嫌よく酒を呑んでいる。鼻歌でも歌いそうな雰囲気だ。
クラリスは酒で体が火照ってきたのか、胸元をはだけさせている。
振る舞われる果実や木の実に薬草や野菜、穀物から作られた酒樽。寄せ集められた種族たちが大きな輪になっている。
目の前で行われているのは宴そのもの。
右の真隣に座る精霊から手のひら大の赤い果実を渡される。恐る恐る齧ってみると、口内に果汁が旨味とともにやってきた。
「そういえばさー、何でユーヤがここにいるの?」
「何? 待て待て待て! クン、お前、知らずに参加させていたのか!?」
「だって、宴ってみんなで楽しくやるもんでしょ? 知り合いでもそうじゃなくても巻き込んで楽しむでしょ」
「済まん。この馬鹿が変なことを」
「いえ」
僕は長二人の会話を聞きながら、精霊の一人に渡された白湯を啜る。そういえば僕って何しに来たんだっけ。
あ、収穫祭のお誘いに来たんだった。
「収穫祭」
「んあ? 収穫祭? 今やっているじゃないか」
「いや、うちの国がやっている、というかこれからやるやつの方」
「へ~、やるんだ、そっちの国も。それがどうしたの?」
クンは顔だけでなく体全体をほんのりと赤くして、僕の肩に乗ってくる。とても酒臭い。正直乗らないでほしい。
「まぁ、参加してほしい、的な?」
「みたいな!?」
「え?」
「気にすんな、気にすんな。あ~、いいよいいよ。参加しちゃるぜ~」
「お、おい。大丈夫なのか? そんなに即答してしまって。しかも酒の勢いで」
「いいよいいよ。別にいいよ」
クンは心配するクラリスに対して、小さなジョッキをくるくる回しながら答える。中の酒が飛び出して僕の首やら肩やらにかかっている。止めろ。
「そ、そうか。お前は普段の言動がふざけているように見えるが、かなりの慧眼の持ち主だ。お主が言うなら信じよう」
「大丈夫か?」
「あぁ、クンはこれでも私の15,6倍は生きているからな」
「言うな!」
僕は少なからず衝撃を受けた。だってこれだぜ? この酒の入ったジョッキを、全く気にせずにぶん回しているような奴が、だぜ?
クライネは自分の年齢が1000を超えているって話していたから、クンは最低でも15000とか16000くらいの年齢であるってこと? ちょっと付き合いを考えちゃうな。
「私も手助けしたいのはやまやまなのだが、済まんな」
「何が?」
「エルフは人と関わりたくないという者が多い。いや、むしろ平気という者の方が稀といった方がいいか」
「そんなにか」
「現に君には近づいてこないだろう?」
「確かに」
僕が周りを見ると、エルフは隣のクラリスしかいない。そのほかは半径10mの円内にいない。
「クラリスは何とも思わないのか?」
「人間種も一枚岩ではないからな」
酒を一口呷った。
「私個人は協力したい。当日は変装でもして参加しようではないか」
「いいよいいよ~。私のせいにしちゃいなよ~。この森で私以上の発言権を持っている奴なんて全然にいないんだから」
クンが僕の肩に寝転がり、空のジョッキをブンブン振っている。顎に当たりそうだから止めてほしい。というか、腹膨れすぎじゃね? 大丈夫か? 僕ここに来てから大丈夫? しか聞いてないな。
まぁ、参加の表明を貰えたからいっか。




