4.頭を抱えてしまうロザリオ
この国、レイベルス王国は異種族の庇護を受けて成り立っている。もし助けがなければ、ここまでの発展はなかっただろう。そのため、建国時の外交に失敗していれば、この国そのものがなかったかもしれない。
私はそう考えている。
そのため、精霊族やエルフ族、龍族、吸血鬼族、その他多種族と協力関係となれたのは大きいと思う。
先日、協力関係の筆頭、精霊族族長のクン様から要請書が届いた。
ヴォジュア・オールドウッドの生息域が広くなってきている。エルフや猫獣人は自分のことで手一杯で手が回せないらしい。エンゼンは全く動いてくれない。我々のことを守ってくれないようだ。
我等精霊族には力がない。対抗する手段がアートしかないので、助けてほしい。
そもそもエンゼンは……。(以下龍への愚痴)
龍族へ愚痴を言えるのは竜人族か吸血鬼族かクン様くらいだろう。あとは各種族の最強格か。
クン様はアートへの情熱のせいで変に暴走しがちだが、あれで頭がよく、気が利く性格であるため、顔が広い。
クン様内での評価が落ちると、同時に他種族内での評価が落ちる。逆に評価が上がれば、他種族の評価も上がる。
ここは迅速かつ丁寧に対処する必要がある。
すでにクン様へ早馬で、ミデリーを派遣することを伝えてある。あのミデリーの予定を終日押さえた、という内容だ。
討伐予定日は明日。討伐報告を私自らがしようと準備していた。
そんな時だったのだ。この一報が入ってきたのは。
私は今一度、目線を机の上に落とした。
ヴォジュア・オールドウッドの討伐完了の報告。
「なぜもう終わっているんだ?」
私は椅子の背凭れに背を預け、片手で顔を覆った。
私はミデリーの言葉を思い出す。
『いやぁ、最近私と戦ってくれる奴が減っちまってなぁ。兄も弟も仕事があって戦ってくれなくなってしまったのだ。今や真面目に相手してくれるのはエルとアイネくらいになっちまった。アイツ等にも居場所がある。いつでも相手してくれるわけじゃない。もう二年は相手してない。なぁ、ロザリオ。良い相手、いない?』
ウイスキーのロック片手に相談してきたあの横顔。私はあの時にクン様からの依頼を告げた。
ヴォジュア・オールドウッドの名を聞いたミデリーの顔を覚えている。にこやかにしながら、それでいて悲しいもの。もはや神話級中位の実力者であるミデリーは、伝説級中位の巨木に興味が湧かないのだろう。
『ま、いないよかマシか。せめて楽しませてもらうよ』
カランと氷をコップ内で鳴らしながら、ミデリーはウイスキーを呷っていた。
ミデリーは刺激を求めている。その機会を奪ってしまった。
どうやって弁明したものだろうか。
相手は国内どころか周囲三島でトップの実力者だ。力で抑え込むのは不可能と言って過言でない。
どうにかミデリーがワクワクできる相手を用意しなければならない。いわゆる埋め合わせってやつだ。
しかし、神話級を満足させられえる相手など、かなり限られている。私自身は下級中位しかないため、強い存在は強い存在で一纏めにしかならない。どこに行けば、暇な強者に遭える?
「ヴォジュア・オールドウッドを倒した存在か……」
どうにかして交渉し、ミデリーを戦ってもらえないだろうか。
今はそれよりも。
「明日のミデリーとの面会、どうするかな」
とても大きな溜息を吐いた。
本気で困った。ミデリーに何と言おうか。