10.知らない料理を食うユーヤ
飯を食う。
それは体を強くするための行為でしかない。
そう思っていた。
今、僕は家にいる。しかし、僕の家ではない。いつの間にか右隣に建てられていた家だ。左側のクライネの家ですらない。
いつの間にかだよ、本当に。
二階建てとなっている邸宅の一階のリビングに集まっている。そこの食卓に、完璧な食事が用意されていた。生の魚と、白い穀物。これが食事?
魚を生で食べるなんて、あり得ない。病気になってしまう。
こっちの白い穀物は何? よく分からないけど、なんかモチモチしている。というか、これ穀物なの? アリスが超興奮しながら穀物だと説明してくれたが、結局何か分からなかった。
「まず右から鯛、鮪、ガンスタッドボルテール、プルスエリア、コントエリア、ファングパンスール、ガンブルーア、アバランチ、蟹、そして出汁巻き卵!」
アリスはキラキラした目のまま、黒いシートを手に取る。これも何か分からない。
「この海苔にお米を適量乗せる。そして、縦長に切った魚、もとい具材を乗せ、巻く! 食う! これぞ手巻き寿司!」
食べたアリスの表情が恍惚としたものとなった。美味いのか、好物なのか。いや、メリッサが慌てて手や口を拭いているところを見ると、初めて食べたのだろう。
ところで手巻き寿司って何だ? 手巻きは分かる。具材を手で巻いているからな。でも、すしって何だ? これを手巻き寿司って言うのなら、巻いていない状態をすしと呼ぶのかもしれない。
「生で食べるなんて怖いもの知らず過ぎんだろ」
エルは海苔に白米を乗せると、何を巻こうかとと指差しで迷っている。
当たり前だ。普通はそう簡単に選べない。魚を生で食べる奴なんていないし、卵だって腹を下す代表例のような食べ物だ。そもそも食べること自体がない高級品でもある。
「う~~~ん、これにすっか」
エルは白身の魚を持ち上げ、白米に乗せた。自分で巻いていくが、白米を多くしすぎたのか、巻き切れていない。それに気付いたようだが、修正が面倒になったのか無理矢理口の中に放り込んだ。口の端から白米がボロボロと落ちた。エルは自身の胸元でキャッチした。
「ねばねばしている」
「口の中に物入っている時に喋んなよ」
アイネが常識的なことを言っている。やっぱり常識人か?
アイネは海苔の上に綺麗に白米を乗せていく。畑で実っていたキュウリを乗せ、赤身の魚も乗せた。かなり几帳面に巻いている。かなり丁寧な巻きだ。普通に美味しそうだ。
クライネが丁寧に巻いている時に、ある事実に気付いた。そう、僕が食事をしていないのだ。
「あれ? ユーヤは食わねぇの?」
「体が動いてくれない」
「私の回復術は体のだるさまでは治せねぇんだよな」
そう、僕は体が疲れすぎて腕が上がらず、手巻き寿司を作れないのだ。
「ケイのやつだったら、疲れまで払拭してくれるんだけどな。私じゃ無理だ」
「ケイ?」
「アイツは理属性の極致にいるような奴だからな。アタシの攻撃を食らいながら回復して、瀕死をなかったことにしたことだってあるぞ」
何それ凄い。そんな戦いができるなら、かなり捨て身の戦法が取れそうだ。
「どうぞユーヤ様、あーん」
クライネが作っていた手巻き寿司を差し出してきた。僕は自分の手で食べられないから、彼女の手で食べるしかない。
一口食べて分かった。いや、正確には何も分からなかった。分からないことが分かった。
歯で挟んだ途端、ぱりぱりとした感触。さらに進めればぐにゅりとしたものと、少しだけ感触の違うぐにゅりとしたもの。何度噛んでもこの感触に慣れない。
「……具材、何?」
「これは……プルスエリアですかね」
「プルスエリアって何?」
「青系統の体色に赤いラインが入った魚系モンスターです。強靭なあごを持っています」
「僕の記憶が間違っていなきゃ釣りの時に釣ったことだある気がする」
あの凶悪な顔をした魚を生で食べているのか。
ぐにゅぐにゅしていて嫌だな。今後積極的に生の魚を食べることはないだろう。ただこの白米は美味いから今後も食べるかもしれない。




