9.龍を堪能するユーヤ
「ゴァ!!」
アイネの口から炎弾が出てきた。僕は痛む体を鞭打ち、何とか避ける。
アイネが石板を割り砕いて、急接近。
急激に足を止め、アイネの拳を躱し、本気の一撃を叩き込んだ。アイネはその勢いに乗って後ろに跳んだ。
腹には鱗がないのに、感触が硬い。腹筋硬すぎだろ。
圧倒的な力不足。攻撃したはずなのに、ビキッと手首に亀裂が走り抜けた。瞳をあらん限りに見開く僕は、アイネの攻撃に備えて腹に力を込める。
「ほらよ」
轟音を立てて、爆砕。僕の内臓が破裂した。口から血が零れ落ちる。それでも僕は立ち続けた。
アイネは笑みを浮かべる
僕は倒れるようにして前傾となり、疾走した。
アイネは猛々しい笑みを浮かべ、両腕を広げる。
これまでに負った傷によって、僕の体は重く遅い。大粒の汗を飛ばしながら走る僕の姿を見て、アイネは長脚を放った。
長大な上段蹴りが僕の側頭部に叩き込まれる
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駄目だ!! ここで終わったら、僕は何も成長できない。
僕の前進は止まらない。
アイネの笑みは張り付いたまま。
僕は剣を振るう。アイネの腹筋に当たった剣は、限界を迎え、折れた。それでも止まらない。止まっちゃ駄目だ!
僕は剣の柄を投げ捨て、拳を握り締めた。アイネの腹部を殴る。
やはり固い。僕の拳の方が壊れた。アイネは口角を上げたまま耐えきった。
「仲間で来たぜ、その拳!」
「がぁぁっ!?」
僕の腹部に拳が叩き込まれる。さらにそこから接射砲撃。腹部で爆砕した火炎に、再び地面から足が剥がれる。
アイネの右手首が煙を上げている。自分の腹部を焼かれた僕は、瞳を見開く。
やがて宙を舞っていた僕の体は背中から落ちた。
「お?」
アイネの動きが止まる。
僕は生まれたての小鹿のように立ち上がろうとする。既に骨が何本か逝ってしまっているし、内臓が破裂してしまっている。
エルの時はこれほどまでに怪我しなかった。アリスの時もミデリーの時もそうだ。
エルと戦っていた時には、ミデリーの優しさとエルの容赦のなさに目が行った。でも、今回はそれを更新してきた。
エルの戦いには優しさがあった。途中で気絶させてきたから。でもアイネには容赦がない。骨も内臓も滅茶苦茶だ。
「ヒュ~、カッケェ。立ってんじゃん」
プルプルと立つ僕に対して、アイネは口笛を吹いた。
エルは力と技術を持ち合わせ、その上で両方を使いこなしていた。
アイネも力と技術を持ち合わせておきながら、技術を使わずに力で圧倒してきている。
僕は疾走し、アイネの腹を狙う。顔面は遠くて狙いづらい。
アイネはそんな遅々とした攻撃など、軽々と躱し、足を引っかける。僕はゴロゴロと転がり、謎のモニュメントにぶつかって止まった。
すぐに影が差す。僕の上にアイネがいる。防御? 回避? もう無理だ。攻撃しかない!
アイネの右拳に向かって拳を繰り出そうとする。しかし、駄目! 体が動かない!
バチンッ!
僕の目の前に現れたそれがアイネの攻撃を止めた。
「あん?」
「え……」
それは人の手の形を持っていた。
それは深い青髪を持っていた。
それは赤い呼気を吐いていた。
それは、そいつの名は。
「エル!?」
「怒んなよ、アイネ。飯の時間だ」
両者が睨み合う。
アイネはそのまま力を抜き、拳を開放した。
「分かった分かった。体動かして腹が減ったし、エルに止められたし、ここで終わりだ」
エルが僕の手を取り、立たせてきた。足がプルプルで力が入らない。
膝がガクリと折れた。
「お?」
僕は顔をエルの胸に突っ込ませた。
「ぼろっぼろじゃねぇか」
エルは僕の頭を胸に抱えたまま、後頭部を撫でてきた。だんだん力が戻ってくる。
「……これ、何かしてる?」
「魔法で回復しているぞ。済まんな。私は回復得意じゃねぇんだ」
「いや、有難う」
そして、若干の回復をした僕は、自分の脚で家まで歩いた。




