8.アイネと戦うユーヤ
辿り着いた広場には人気がない。当たり前だ。この広場は破棄されて久しい。
村の中に遊び場があるのに、村から5分以上離れたここに来る意味などない。
今は月が少しだけ見えている夕刻。人の気配が一切ない広場の中央、そこに彼女はいた。
「……来たな」
アイネは笑っている。
僕は黙って足を進め、アイネの前まで赴く。アイネと腕二本分の間合いを残して相対し、アイネを見る。
「倒してやる」
はっきりと言葉にする僕の顔をマジマジと見つめ、アイネは目を細めた。
「……家の前の時より、いい面しているな」
信念を貫こうとする雄の顔。アイネは嬉しそうな顔をした。そのくびれた腰に片手を当て、彼女は不敵な笑みを纏った。
長い水色の髪と、同色の瞳を揺らしながら、じゃりっと素足で砂利を鳴らす。
双眸を吊り上げるユーヤは、刃を潰した剣を構えて止まる。時間の経過に身を委ねた。
相手の出方を窺う。
「いいねぇ」
そんな僕を、アイネは愉快そうに瞳を細める。
二人の間に流れている時間が、徐々に引き絞られていく。
「いいね、こういうの、嫌いじゃない。むしろ好き」
アイネは唇を吊り上げながら、じゃりっと砂利を鳴らした。
瞬きをする時間もあれば、攻撃はもう届く。僕は反射的に剣を振り、脚撃に合わせた。
交差した脚の奥で、アイネが笑う。当たるものを破壊する勢いで振ったのに、アイネの脚を守る鱗は傷一つついていない。
快音を上げ得物を弾き合う僕と龍人は、更に加速していく。
「ヒュ~~、最高っ!?」
互いの体を交わせ、刃を走らせ、アイネは口笛を吹いた。留まることを知らない激突音と火花を散らせ、腹の底から歓呼している。
「これだからいいんだ。強い奴と交わるのはっ!!」
剣と鱗をぶつけ合う僕の顔を見据え、アイネが種族らしく獰猛に笑う。
「荒々しい、力が強い、でもまだ足りない!」
僕の全てを受け止めながら、もっと引き出せ、と要求してくる。
一撃一撃を繰り出すたびに、広場に少しだけ残されていた石板を粉砕していく。僕はそれに雄叫びを上げながら、剣を見舞い返していく。
広場で円を描くように高速で移動し合い、一撃と一撃を本気でぶつけていく。
何も分からぬ者が見たならば、今の攻防を一進一退と表現するのだろう。しかし、そんなことはない。僕の一撃はあの巨木モンスターと戦っていた時と比べれば、数段階も上昇している。その本気を軽々と受け止め、それどころか押し返してくる。どこが互角だ。自惚れるな。
やがて、アイネは龍人族としての性を爆発させた。
「もういいよなぁ!? アタシはここまで我慢してきたんだ! 最後まで付き合えよ、ユーヤ!!」
下がっていく気温と正反対に、アイネの体温は上がっていく。火照る全身を、若干の太陽光が包んでいく。
「いくぜ?」
戦闘音が支配している空間で、その声だけははっきりと聞こえた。
次いで、力強く握り締められる拳に火が着いた。火拳に剣を合わせるが、すぐに地面から剥がされてしまう。一瞬で距離を作らされた。
僕は崩れかけている謎のモニュメントに体から突っ込む。
強い。エルと同じく容赦なく来るタイプだ。
「休んでんじゃねぇぞ!」
マズイ、心が焦燥に燃える。
アイネはモニュメントに埋まったままの僕を蹴り飛ばした。僕はモニュメントを貫通し、地面をバウンドする。
痛みを我慢して連撃を繰り出す。アイネはそのすべてを弾いていく。届いたとしても、その髪の先端を切断するくらいだ。
連撃を繰り出しても、アイネを守りに入るどころか、長脚長腕を織り交ぜて倒しに来る。僕も当たらないように躱しているが、皮一枚切り裂かれてしまう。
刻一刻と削られる体に、額から汗が落ちた。
早く決着させなければ僕は押し負けると思い、突撃するが、痛烈なカウンターを綺麗に頂戴してしまった。鼻が潰れて平坦となってしまったと思う威力に、僕は地面を転がる。顔を上げると、止まることなく血が垂れてきた。
焦点の合っていない両目でアイネを捉える。何人にも見える彼女に力を感じる。筋力だけじゃない。何だ? モンスターが時々見せる炎や水弾に似ている。
「その感じ、魔力を知らねぇな?」
話す龍人の口端から何か紫の炎のようなものが出ている。
あれは受けてはいけない。
直感で分かった。




