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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
3.アイネ
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8.アイネと戦うユーヤ

 辿り着いた広場には人気がない。当たり前だ。この広場は破棄されて久しい。

 村の中に遊び場があるのに、村から5分以上離れたここに来る意味などない。


 今は月が少しだけ見えている夕刻。人の気配が一切ない広場の中央、そこに彼女はいた。


「……来たな」


 アイネは笑っている。

 僕は黙って足を進め、アイネの前まで赴く。アイネと腕二本分の間合いを残して相対し、アイネを見る。


「倒してやる」


 はっきりと言葉にする僕の顔をマジマジと見つめ、アイネは目を細めた。


「……家の前の時より、いい面しているな」


 信念を貫こうとする雄の顔。アイネは嬉しそうな顔をした。そのくびれた腰に片手を当て、彼女は不敵な笑みを纏った。

 長い水色の髪と、同色の瞳を揺らしながら、じゃりっと素足で砂利を鳴らす。


 双眸を吊り上げるユーヤは、刃を潰した剣を構えて止まる。時間の経過に身を委ねた。

 相手の出方を窺う。


「いいねぇ」


 そんな僕を、アイネは愉快そうに瞳を細める。


 二人の間に流れている時間が、徐々に引き絞られていく。


「いいね、こういうの、嫌いじゃない。むしろ好き」


 アイネは唇を吊り上げながら、じゃりっと砂利を鳴らした。

 瞬きをする時間もあれば、攻撃はもう届く。僕は反射的に剣を振り、脚撃に合わせた。

 

 交差した脚の奥で、アイネが笑う。当たるものを破壊する勢いで振ったのに、アイネの脚を守る鱗は傷一つついていない。

 快音を上げ得物を弾き合う僕と龍人は、更に加速していく。


「ヒュ~~、最高っ!?」


 互いの体を交わせ、刃を走らせ、アイネは口笛を吹いた。留まることを知らない激突音と火花を散らせ、腹の底から歓呼している。


「これだからいいんだ。強い奴と交わるのはっ!!」


 剣と鱗をぶつけ合う僕の顔を見据え、アイネが種族らしく獰猛に笑う。


「荒々しい、力が強い、でもまだ足りない!」


 僕の全てを受け止めながら、もっと引き出せ、と要求してくる。

 一撃一撃を繰り出すたびに、広場に少しだけ残されていた石板を粉砕していく。僕はそれに雄叫びを上げながら、剣を見舞い返していく。


 広場で円を描くように高速で移動し合い、一撃と一撃を本気でぶつけていく。


 何も分からぬ者が見たならば、今の攻防を一進一退と表現するのだろう。しかし、そんなことはない。僕の一撃はあの巨木モンスターと戦っていた時と比べれば、数段階も上昇している。その本気を軽々と受け止め、それどころか押し返してくる。どこが互角だ。自惚れるな。


 やがて、アイネは龍人族としての性を爆発させた。


「もういいよなぁ!? アタシはここまで我慢してきたんだ! 最後まで付き合えよ、ユーヤ!!」


 下がっていく気温と正反対に、アイネの体温は上がっていく。火照る全身を、若干の太陽光が包んでいく。


「いくぜ?」


 戦闘音が支配している空間で、その声だけははっきりと聞こえた。

 次いで、力強く握り締められる拳に火が着いた。火拳に剣を合わせるが、すぐに地面から剥がされてしまう。一瞬で距離を作らされた。

 僕は崩れかけている謎のモニュメントに体から突っ込む。


 強い。エルと同じく容赦なく来るタイプだ。


「休んでんじゃねぇぞ!」


 マズイ、心が焦燥に燃える。


 アイネはモニュメントに埋まったままの僕を蹴り飛ばした。僕はモニュメントを貫通し、地面をバウンドする。

 痛みを我慢して連撃を繰り出す。アイネはそのすべてを弾いていく。届いたとしても、その髪の先端を切断するくらいだ。


 連撃を繰り出しても、アイネを守りに入るどころか、長脚長腕を織り交ぜて倒しに来る。僕も当たらないように躱しているが、皮一枚切り裂かれてしまう。

 刻一刻と削られる体に、額から汗が落ちた。


 早く決着させなければ僕は押し負けると思い、突撃するが、痛烈なカウンターを綺麗に頂戴してしまった。鼻が潰れて平坦となってしまったと思う威力に、僕は地面を転がる。顔を上げると、止まることなく血が垂れてきた。

 焦点の合っていない両目でアイネを捉える。何人にも見える彼女に力を感じる。筋力だけじゃない。何だ? モンスターが時々見せる炎や水弾に似ている。


「その感じ、魔力を知らねぇな?」


 話す龍人の口端から何か紫の炎のようなものが出ている。


 あれは受けてはいけない。

 直感で分かった。

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