6.普通に過ごすユーヤ
チュンチュンと雀が鳴いている。最近体が痛い。床で眠っているからだ。
なぜか今でもアリスはいるし、その専属メイドのメリッサもいる。クライネもエルもいる。ここは僕の家なのに皆が我が物顔だ。
今はクライネとメリッサとアリスが夕飯の準備をしている。クライネはどうやら家事初心者らしく、アリスとメリッサから教えてもらっている。掃除の仕方や洗濯の注意点など吸収している。今も調味料の作り方からやっている。というか、アリスって貴族のお嬢様じゃなかったのか? 何で家事ができるんだ?
料理を作るのに時間がかかるだろう。あれこれ指示を出したり質問したりしている。何というか居づらい。僕が何かしなくちゃいけないことがない。居づらい。
何でだろう。何もしない奴と思われたくない。これはあれか? 僕も何か手伝うことはないか聞いた方がいいのだろうか。
「な、なぁ」
「何?」
声を掛けたところ、答えてくれたのはアリスだ。アリスは心底なぜ話しかけられた分からないという顔をしている。
「僕にできること、ある?」
「え、いや、無いけど?」
結局アリスの顔は変わっていない。疑問は解消しなかったようだ。
じゃあ、僕は何をしようか。料理において出来ることはなさそうだ。勝手に行動して怒られるくらいなら、一旦ここから離れるか。
ンゴー、ンゴーといびきをかいて眠っているエルが信じられない。もう昼だというのに爆睡中だ。実はこいつ、朝飯前に寝始めているんだよな。
エルのことを少し知っているアリスが話していたことなのだが、どうやら彼女は夜行性らしい。別に昼間を起きていることも可能らしいのだが、疲れるから嫌なのだそうだ。
完全に晒している腹をボリボリと掻いている。寝返りを打ち、エルが壁の方を向いた。ズレているズボンの隙間からパンツが見えている。本当に我が物顔だな。
僕はベッドから腰を上げると、刃を潰した剣を手に取り、中庭に出た。僕は中庭にある畑を見渡す。クライネのおかげで青々としている。
僕は刃の一枚に手で触れた。いいなぁ、これ、美味しそうだ。いつも素振りをしている場所はここから右なのだが、何となく、本当に何となく左を向いた。
何かある。木造の住宅。え、木造の住宅がある。え? なんで? いつの間に?
一度、刃を潰した剣を見る。もう一度住宅を見る。もう一回剣を見て、家を見る。やっぱりある。
いつ作られたんだ? 自分の顎に触れる。
そういえば、ここ最近クライネとエルとアリスが、家事以外の時にも一緒にいたな。あれか? あの時に造っていたのか?
う~ん、どうしよう。正直、興味がないと言えば嘘になる。ただ問題なのは、勝手に行っていいのかどうか、だ。あそこは僕の土地の範囲じゃない。どうする?
そこでふと気付いた。あれ、僕、いつの間にか住宅に体が動いてしまったのか。
一歩分。たかが一歩分だが、近づいた。成る程。僕の心は行きたがっているということか。
ならば行こう。これはもう行くしかない。
「何をされているのですか? 変な踊りを踊られて」
「うおっ!?」
まさか声を掛けられるとは思わなかった。おかげで変な声が出てしまった。
「いや、何、あの建物がきになってしまってな……変な踊り?」
「こんな感じの不思議ステップだったよ」
そう言うと、アリスは驚くほどキレッキレのステップを踏んだ。本当にそのダンスを僕がしたのだろうか。
「あれは私の家ですね。簡易的ではありますが、建てさせていただきました」
「成る程ね」
「ほら、流石に5人で寝るのは厳しかったじゃない? だから私、ちょ~~~~っと本気出しちゃった」
無駄に可愛さアピールをしているアリスは置いておこう。こういうのは触れたら戻ってこれなくなる。
「後で案内しましょう」
「ありがとう」
「私達はこの野菜を摘み、ご飯をお作りします。まだ時間がかかりますことはご了承を」
「いいよ。僕は素振りしているから」
クライネが恭しく礼をして家の中に入っていくと、入れ替わるようにエルが出てきた。完璧な寝起き顔だ。
寝ぼけ眼をショボショボとさせ、髪を整えていないボサボサ、服の中に手を突っ込んでボリボリ掻いている。
「ユーヤ」
「どうした?」
「もしさ。これもしもの話なんだけどさ。これ以上女性が増えるってなったらどう?」
「それは強者が挑んでくるってこと?」
「いや、この家に泊まりに来るってこと」
この家に人がさらに増える? 普通に迷惑だ。この家にはそんなに人が入らないぞ」
エルは僕の前を横切って、井戸の縁に座った。
「そりゃ困るよ」
「やっぱ?」
「ただでさえ狭いっていうのに」
「この家の周りに、クライネみたいに建てるのをありにしたら? 別宅みたいに」
「……それなら別にいいかな」
何で聞いてくるのだろうか。これから増やす予定があるのだろうか。
「安心しろ。増えても後二人くらいだよ」
「二人?」
「おう。一人目は私の超親友。たぶんそろそろこっちに来ると思う。人の心を自在に読める魔眼族だ」
「魔眼族。噂でしか聞いたことないなぁ」
「もう一人はあれ」
「あれ?」
エルが指を向けるその先には、圧倒的な威圧感を放つ女性がいた。




