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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
3.アイネ
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2.帰れないケイ

 僕はペン立てから赤ペンを取り出し、書類を訂正していく。紙なんて高級なものを何枚もゴミにする気なんてない。まぁ、ゴミを作っている時点で、という話ではあるんだけどね。

 数字の間違いをちょちょちょいと直し、ついでに伝えておいた方がいい要点も書いておく。


「ハァ」


 大きく強く溜息を吐いて、背凭れに体を預ける。


 僕は机の上に置かれているカップに手を伸ばす。おっと、カップが軽い。

 そういえば一時間前くらいに飲み物がなくなったんだった。もうメイドが定時で帰ってしまって数時間経っている。


 外は真っ暗、中も真っ暗。

 外は月やら星やらの明かりで少しは明るい。中は僕の机を照らす用の蝋燭しかない。廊下とかマジで真っ暗。正直行きたくねぇ。

 でもお茶をカップルに入れるには給湯室に行かなければならない。人を呼ぶのも面倒だし、取りに行くのも面倒だし。

 だって、ここから給湯というかお茶の補給をするのに、あの場所まで十分かかる。


「ダリィ」


 ウゴゴゴゴゴと唸りながら、髪を掻き毟る。しかし、いくら唸っていてもお茶はカップに注がれない。


「しゃーねー、行くかぁ」


 僕は机を叩くように手をついて、立ち上がった。カップを雑に取って歩き出す。


「さすがにこの時間じゃ夜の見廻り兵しかいないか」


 中身のないカップをくるくると回しながら呟く。


「その通りにございます、ケイ様。なぜこの時間に貴方様がって、この会話、前にしましたよね?」

「したね。三日くらい前に」

「……何をされているのですか?」

「いや、何ってゆーか、王様に阿保みたいに仕事押し付けられてんだよね」

「そ、それは」


 夜の見廻り兵が言葉を詰まらせる。仕事の押し付けは実際辛い。この兵も辛さを知っている。僕には見える。


「ちなみに、どちらまで?」

「お茶の補給」

「私もお供致しましょう」

「お~い、ありがとー」


 危ねぇ、危ねぇ。いらねぇが飛び出すところだった。

 僕の後ろを兵が歩いてくる。邪魔だなぁと思いつつ、僕はそれを口に出さない。僕はこれでもかなり偉い立場にいる。僕の他愛のない一言で、この子の人生が終了まっしぐらしちゃうくらいに。

 この自由のなさだけで言えば、僕はこの子よりも不幸だ。もうすでに四年近くは休みなしで働いているし、最後に家に帰れたのも何年前だろ。

 そんなに使わない家なら引き払ってしまいたいが、我が家で働いてくれているハウスキーパー達の職を失わせないためにも、残しておきたい。


「私はいつもこの時間にしか登城しないのですが、ケイ様も?」

「ずっとに決まってんだろ、ずーっと。一日中さ」

「え!? では、いつお家に」

「帰ってないよ。いつ次のお仕事が来るのか分からないからね。お城の近くにお家あるけど、無駄になっちゃったよ」

「私は兵でしか活躍できません故分からないのですが、お城はそんなに人手不足しているのですか?」

「あんまり首突っ込むと戻れなくなるよ」

「え」


 ちょっと冗談を言ったら兵の子が止まってしまった。


「人では足りているんだけどねぇ、能力が足りていないんだよね~」

「ど、どういう事でしょうか?」

「君みたいな兵士って職業と、ファブリーヌみたいな財務大臣とを比べたら、どっちが補充しづらいか分かるだろう。人が多くても補充しづらいのさ、僕の仕事は」

「ハハァ、成る程」

「ちなみに君って龍人と戦えたりする?」

「え!? 竜人ですか!? む、無理ですよッ!? た、戦えとおっしゃるのでしたら、時間稼ぎにもなるか分かりませんが」

「別に特攻してほしいんじゃないから、そういうのはいいや。じゃあ、ランクはいくつなの? 私は上級中位だよ」

「え……。わ、私は上級下位なのですが」


 ヤッベ。この子が落ち込んじゃった。まぁ、いいか。


「あれ? 給湯室はこちら……」

「いや、こっちでいいよ。ちょっと寄り道」


 兵の子は少し呆けている。どこに行こうとしているのか分かっていないのだろう。


 正解はバルコニーだ。ガンドス国の動向を調べるのに役立つのだ。ま、今回はそれじゃないけど。


「バルコニーですか」

「そう」


 僕はバルコニーの扉を開け、外に出る。

 バルコニーの中央まで来た時、上から龍人が下りてきた。


「よぉ~~ケイ、久し振りだなぁ」

「やぁ、アイネ。何の用か知っているけど、後ろの子に剣を収めてもらうために聞くよ。何の用だい?」

「アタシはエルに逢いに来た!」

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