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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
2.エル
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10.激強アリスちゃんにビビるユーヤ

「二回目は駄目ですからね」

「え、あ、あぁ、分かった」


 戦闘が始まる前、クライネが僕に言ってきた。一月ほど前にミデリーと戦った際、その余波で井戸を壊してしまった。そのことを言っているのだろう。

 ごめんクライネ、それは確約できない。だって、それはアリス次第だから。


 アリスは屈伸を繰り返し、やる気十分だ。


「よし、では始めようか」


 両者の間にミデリーが立つ。


「準備十分。いつでも良し!」

「僕もいいぞ」

「よし、では始め!!」


 割と確認の時間があると思っていたのだが、すぐに始まってしまった。僕は剣を抜き、アリスに向けて構える。

 それと同時にアリスも剣を抜いた。そこから構えることなく、こちらに走ってきた。


「何!?」


 照り付ける太陽の光の下、風を切り裂く銀閃が僕を襲う。僕は剣で受ける。

 散る火花の速度が遅くなっていく中、僕は気付いた。これ、鍛錬用の刃を潰した剣じゃん。


「っ!?」


 アリスはその防御を無視して、連撃を繰り出してくる。こちらに来る無数の斬撃は一つとして遊びがない。これで十四歳だと? 嘘だろ?


 その嵐のような猛攻を受け切るので精一杯だ。

 自身の身の丈と変わらぬ長剣を手足のように扱い、戦闘民族は迫る死を悉く打ち払う。こちらの攻撃も通らない。


 剣を握る力が強くなる。その剣に全てを乗せ、同じようにする相手の全てにぶつける。刃のない鋼越しに伝わるのは、互いの熱と熱。想いと想い。

 合が重なるごとに、不要なものが削ぎ落とされていく気がする。ただ互いの存在だけが浮き彫りとなっていく。


 互いの闘いは無呼吸。どちらかが一呼吸を置いた時、それが決着の時となるか。


 アリスの猛攻に炎を幻視する。それに焼焦がされ、鮮血の結末を想起させる。

 僕はそれを否定するように剣を振るう。


 極限の集中力が時間の経過を曖昧にし、世界から音が、色が、自分と相手以外の全てが奪われる。

 アリスの剣を受け止め、円を描くようにして流し、反撃。

 そこでアリスが消えた。もう後ろにいる。アリスが突きを繰り出してきた。

 迫る刃が予想通りの軌道、一直線を描き、僕の胴体、特に脊髄へ突き刺さる。


 寸前、踵で地面を抉るほど踏み切り、外へ逃げるように回転して躱す。渾身の一撃を避けられ、アリスの追撃が遅れる。

 僕は回転の状態を利用して、腰を斬りに行く。露出している脇腹に、僅かに刃が触れる。


 その瞬間にも彼女は消えた。また真後ろにいる。

 僕は剣を振る腕を止めずに、その場で前転するように跳び、アリスの肩を蹴って距離を取った。

 態勢を立て直すように片膝を立て、そこで初めて一呼吸置けた。アリスも息をしている。肩が上下、僕もか。この一呼吸では決着まで行けなかったか。


 自慢の娘。成る程、納得だ。これほどの美しさと強さがあれば、自慢し放題だろう。

 そして、僕には分かる。今、こうしている時も彼女は成長している。この強さが天井でも、天井付近でもない。潜在能力といえばいいのだろうか。それが半端ではない。


 一般的な戦士の最高レベルの平均が零から百のうち四十だとするならば、彼女の潜在能力は五百ある。そんな感覚になる。その中で、彼女はまだ六十までしか発現していない。それしかないから今助かっている。そう考えられた。

 いや、駄目だ。後ろ向きになるな。今僕が考えるべきなのは二つだけ。この無数の銀閃を突破する方法と、一瞬で彼女が移動している方法だ。

 前者は簡単だ。僕がとにかく頑張ればいい。頑張って往なしたり躱したりすれば、彼女の懐に入れる。

 問題は後者。移動の方法が皆目見当つかない。凄く早く動いているのだろうと思っているが、なぜ移動と同時に攻撃しないのだろうか。


 攻略方法を考える。そもそも僕が彼女に勝っている点はどこだ? 経験? 闘争心? それとも負けたくない意地?

 どれにしても僕は勝つ。


 雨のように降り注ぐ剣をギリギリで躱し、往なし、受け、そのまま突き進む。アリスは目を見開いている。こんな捨て身で来るとは思わなかったのだろう。残念、僕はそういうやつなんだ。

 当然のように辿り着き、刃を潰した剣を届かせる。アリスはそこで消えた。


 ここからが真の捨て身の見せ所。どうせアリスは死角となる真後ろに現れる。ほら、現れた。

 準備はその前から始まっている。振った剣を無理矢理止め、ビキビキ叫んでいる血管を無視して、後ろを狙って振るう。

 僕の後ろで剣を振りかぶっていたアリスが目を剥いた。剣身が剥き出しの脇腹を捉える。ミシミシと筋繊維が軋む音、グチグチと内臓があげる悲鳴、そしてゴリゴリと骨が形を変えていく音が鋼を通して伝わってきた。


 キタッ! キタキタキタッ! 捉えた! 完璧だ! 思わず叫びたくなるような一撃。その感触が消えた。

 徐々に離れていくようなスゥといなくなる消え方ではない。本当にそこから消えていなくなる消え方だ。目的地へと向かう線の移動ではなく、その場に急に出現する点と点の移動だ。


 僕の遥か後ろにアリスが出現する。自身の脇腹を押さえながら、口から気炎を撒き散らしていた。

 アリスはまだまだやる気のようだ。

 ここらで終わらせよう。いや、終わらせないといけない。成長力のせいで追いつかれてしまう。


 アリスが太陽のような笑顔のまま、天を仰いだ。楽しんでいやがる。あの一撃で、吐き散らせておきながら、まだ楽しめているというのか。化け物め。


 大きく息を吸い込み、一気に駆け出してきた。

 怪我人の動きではない。筋肉も内臓も骨も傷ついたはずなのに、もう治ったというのか。長期戦は無理だ。圧倒的な不利だ。

 僕はギリリと音が鳴るほど歯を食い縛る。


 一撃。一撃だ。一撃で気絶させられなければ僕の負けだ。しかし、僕の思考は至って冷静だ。

 絶望的な状況だろう。だが、そこまでの絶望感がないのだ。少し前にミデリーと本気でぶつかったからかもしれない。向こうの方が絶望的だった。どのような手を尽くそうと考えられる時点で、だいぶ楽な状況だ。


 復活している銀閃を何とか受け流し、再び懐に入る。アリスの側頭部を狙い、剣を振るう。

 アリスが消えた。想定内だ。さっきもそうするのを見ているからな。狙いは勿論真後ろ。僕はそれが解っているからこそ、アリスの頭の位置に、さらに半回転して剣を振るった。


 アリスが消えた。これも想定内。アリスは素直だ。鋼も通して伝わってきた。このまま成長すれば、こう成長するだろうという予測が立てられる。その成長曲線の中に、卑劣は存在していない。そのまま長所を伸ばすように成長するだろう。今回で言えば、移動先を変えるか移動回数を変えるか。これくらいだ。これ以上の成長はない。そう、鋼を通して教えてくれた。


 アリスが攻撃をしてくるよりも前、さらに半回転する。もう大丈夫。剣は届く。アリスの目が剥かれる。移動しようとしているな? だが、残念。もう間に合わない。


 ゴッッッ!!!!


 鈍い音が響いた。少女は意識を失った。


 僕はその場で膝を着き、四つん這いとなった。ブワリと毛穴が開いた気がする。汗が全く止まらない。もう地面の色が変わってしまっている。


「どうだ? これが私の自慢の娘だ」

「ハァハァ、僕は、たった一言の、はぁ、単語が、ハァ、思い浮かんだよ」

「ほう、何だ」

「怪物、そして化け物」

「フム。怪物。そして化け物か。そうか、成る程成る程」


 その瞬間、ミデリーから笑みが消えた。何かこちらがアクションを起こす前に、ミデリーの平手が僕の頬に届く。


 流石、怪ブッ!!?

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[一言] アリスちゃん女の子止めてない? 滅茶吐いているけど、大丈夫?
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