9.娘と会うユーヤ
刃を潰した剣を振り上げる。自分の成りたい自分を思い浮かべ、それに一歩でも近づくように剣を振る。
僕の汗が玉のようになって飛んだ。五、六滴の汗がパタタと地面に落ちる。
夏らしい澄み切った青空から日差しが降り注いでくる。既に夏真っ盛りを迎え、ギラギラと照り続ける暑い太陽に見下ろされながら、煌めく剣が風切り音を鳴らしていた。
ここは僕の家の中庭。井戸を挟んで向かいでは、クライネが畑の植物と対話している。然魔法をかなり使える者にはできることらしい。僕には適性がないためよく分からない。
豊かに生える芝生の上で、僕は一人、素振りをする。
五回の素振りだけでもう汗だくだ。
僕は汗をかなり吸い込んだシャツを雑に脱ぎ捨てる。窓に投げ入れたシャツがビチャッという音を立てた。そんなに吸っていたのか。僕は日陰となっている壁に背を寄りかからせる。先程の素振りを反省し始める。
駄目だ。やはり僕は目標がはっきりしていない。僕はただ強くなりたいという目標しかない。何でとか、どうしてとかがはっきりしていない。具体的なものにしよう。
……よし、ミデリーだな。ミデリーを倒すことにしよう。
じゃあ、今の素振りでいけるのか? 無理だな。即答できる。あれの底が見えないから。
どうすればいい? 駄目だ。浮かばない。もう一度戦ってほしい。
「うん?」
僕が顔を玄関の方に向ける。ミデリーが来た。
ヤバい。僕は今汗だくだ。しかも上半身裸。これ、僕失礼に当たるんじゃないか?
ミデリーと同様の赤髪をサラリと横に流しながら、こちらに首を傾けてきた少女。こちらを観察してきている。
何? というか、露出、多くない? 腹も肩も外に出ているし、ズボンが短くて太腿がばっちり見えている。
「自主練中であったか」
「あぁ」
「邪魔であったなら、その自主練が終わるまで待っていようか?」
「いや、いい。自主練はいつでも中断できるようにしているから」
「よし、では紹介しよう。これが私の娘、アリスだ」
「どうも初めましてアリスです。よろしくお願いします!」
元気な挨拶だ。元気過ぎてこっちが気圧されてしまいそうだ。いや、気圧されたら負けだ。
「む、むむ。オーラが凄い。でもでも、私だって負けないよ!」
何かハァアアア!! と気合を入れ始めた。え、何? 何しているの?
ミデリーを見ると、顔がにやけていた。あ、これミデリーって親馬鹿だな。
「どうだ? 可愛いだろう?」
「え、あ、あぁ、そうだね」
「ちなみに年は十四。もうそろそろ成人させようと思っているんだ」
「僕の二つ上なのか」
「年下!?」
年を言うと、アリスが食いついてきた。年下だと何かあるのか?
「お母さまから聞いているわ。貴方がとても強いってね」
アリスの目がきらきらとしている。ここにミデリーの血を感じる。これは戦闘好きか?
というか、今滅茶苦茶話を聞き流しているが、娘自慢が長い。アリスは照れて止めようとしているが、ミデリーはすべて躱し続けている。
この自慢の仕方、何かクンを思い出してしまう。
「と、いうわけで!」
急に声が大きくなった。僕は肩をビクリと震わせる。
ミデリーが太陽のような笑顔を向けてきている。嫌な予感がする。というか嫌な予感しかない。どうせこの娘と戦えっていうんだろ?
「私の自慢の可愛い娘、アリスと戦ってほしい」
「何で?」
ほらぁ。ほらぁ、やっぱりそうだ。僕の思った通りだ。やっぱり戦え、だ。
「お願いしますっ!!」
元気いっぱいだ。アリスは凄く元気いっぱいだ。しかも顔の周りがキラキラ輝いているように見える。これは避けられない。
「……分かったよ。僕の自主練として付き合ってもらおうかな」
「全力で頑張らせていただきます!」
やっぱり元気だ。
ところで、何が”というわけで”だったのだろう。




