8.月霊祭を楽しむユーヤ
翌日、七月二十六日夕方。
「今、何時?」
「……十七時ですね」
井戸で体を清めた後、僕はクライネに時間を聞く。クライネは木製の貝のようなものを開き、時間を確認した。アレが世に言う時計とかいうやつなんだろう。
「十七時ってことはもう月霊祭が始まっているのか」
「行きますか?」
「行こう。出店の料理が気になる」
「分かりました。では、出発の準備をいたしましょう」
クライネは濡れた手を付近で拭き取り、部屋に引っ込んでいった。
さて、僕も準備をしないとな。とはいっても、僕に持ち物なんてほとんどない。服と剣、後何かあるか?
「準備が出来ました。行きましょう」
クライネの準備が終了したため、村へと向かう。国を挙げての祭りなのだから、王都が一番盛り上がっているのだろう。しかし、行くのが面倒なため、近くの村で済ませることにした。
「明るいですね」
「こんな遠くにいるのに火が着いているのが分かるなんて、相当だね」
「あの光は何かで火を覆っていますね」
「あれは提灯っていうんだ」
後ろにいたのはロザリオだった。ロザリオが提灯について説明してくれるが、興味がないので全く入ってこない。
「話が面白くないという顔をしているな。まぁいい。渡したいものがあっただけなんだ」
ロザリオが懐から袋を取り出した。ズシリと重い。
何これ?
「それはクン様を参加させてくれた謝礼だ」
「お金か。……お金?」
僕は超貧乏だ。お金を稼ぐ手段がほぼないため、基本が物々交換なのだ。貰ったことがあるお金も銅色のものか鉄製のものの二択だ。今僕の手にあるキラキラしたものは見たことない。
「……これ偽物? こんなキラキラしたやつ見たことないよ」
「え」
偽物と言われ、ロザリオが固まってしまう。
「これは銀貨なんだが、そうか、初めてか」
「じゃから言ったろう。こんな田舎の基本は鉄貨か物々交換じゃ。ほれ、それを鉄貨に両替してやろう」
「両替?」
「お金を価値を保ったまま別のお金に換えることです」
僕はドワーフのおじさんから袋を取り換えてもらう。これで月霊祭の資金にできる。
僕はロザリオと別れ、村に入る。提灯の明かりによって明るくなっていた。出店が様々出ている。
「何からいただきますか?」
「腹減っているからがっつりいきたい」
「ではあそこにあります肉串をいただきますか」
肉串には肉が五つ刺さっている。肉にはタレがたっぷりついており、味が濃くて美味しい。僕はこういう味が濃いのも好きだ。薄いのも繊細で好き。
「進み遅いけど」
「……私達エルフはお肉をあまり食べません。このタレも。味が濃くて胃が驚いてしまっています。食べ慣れていないからでしょうね」
「僕が食べよっか?」
「良いのですか?」
僕は腹が空いていたこともあり、クライネの手から肉串を貰い齧り付いた。やっぱ肉が美味い。
「我儘いいですか?」
「何?」
「野菜かフルーツを所望します」
「いいね。行こう」
野菜もフルーツも串に刺さっていた。炒め麺や氷菓子は器に盛ってあるので、何かこだわりがあるようだ。
野菜にも何かかかっている。塩味がある。自然にあるものではない。これ、クライネ大丈夫か?
クライネの方を見ると、椅子に座り、ぐったりしていた。
「コレジャナイ」
「……早めに帰るか?」
「ユーヤ様がお決めになって構いません」
「じゃあ」
僕が屋台群に顔を向けると、何かが飛来してきた。
僕はそれをすぐさまキャッチした。ウギャッと聞こえてくる。
「うん?」
何だ? 手の中を見ると、それはクンだった。暴れ疲れたのか、今はぐったりしている。
手を完全に開いて開放する。
「さ、流石ね。凄い速さで飛ぶ私をキャッチするなんてね」
「……割と簡単だったぞ?」
「まぁいい。よく来たな、ユーヤ。私の絵のブースに来い。歓迎してやるぜ! おっと、そこでぐったりしているのはクライネじゃないか。クラリスから依頼されていた成人の祝いの品を作っていたんだが、もう十三年くらい取りに来ていないし、早めに持って行けよ?」
「え、え~と」
僕は察した。クライネにとっていらないものを押し付けられているんだ。
「で、では後日に」
「よ~し。こりゃ取りに来ねぇな。別のモン作っておくか。ペンダントとかバッジとか、小さいやつ
」
クンがブツブツ言いながら、屋台に戻っていった。
「……何を作ってもらったんだ?」
「私の等身大木彫りの像です」
「い、いらない」
本当に要らないものだった。僕もあげると言われたら、絶対にいらないと答えてしまうだろう。
「おや、ユーヤじゃないか」
「ん? ミデリーか。何でここに? 王都とか自分の領地とかの月霊祭に出ているんじゃないの?」
「お前に会いに来たんだよ」
「……何の用だよ」
何の駆け引きもなく、ミデリーは本題を言ってきた。
「明日、家に行くから、用意しておいてくれ」
「準備って、なんの? うちには高いお茶なんて無いよ」
「ははは、いらんいらん。私は飲食物の良し悪し、値段の高い安いなどさっぱり分からん。どこでも売っている安物でも構わん。娘の舌も庶民派だしな」
「娘がいらっしゃるのですね」
「ウム。明日は娘に会わせたいのだ」
「まぁ、いいよ」
「よし。じゃあ、また明日な」
ミデリーは手をヒラヒラと振りながら去っていく。近くにいたお付きの人から肉串を受け取ると、五つを一気に口に放り込んだ。




