7.説明を受け入れたクン
目の前に、私の身長よりちょっと高く粘土を積む。
「これは掘ってきた粘土さ。水を含ませると粘り気が出て滑らかになるんだぜ」
「専用か」
「そうだぞ」
奴は粘土を覗き込んでいる。そういえばこいつの名前は知らないな。まぁ、”奴”のままでいいか。名前覚える気ないし。
私は翅を動かし、山の上に立つ。
「まずは土を練る。横円柱状にして、全体重をかけながら粘土を押し付ける。真下じゃなくてやや斜め前に滑らすようにやるんだ前にやったやつを手前に持ってきて、また押し付ける。粘土の柔らかさと、土そのものの密度と均一にするんだ」
「全身を使っているな」
「精霊は特にね。体がちっちゃいからね」
こちらのことを気にしながらも、粘土を捏ねている。素直だ。私の言ったことを忠実に再現している。人の言う事をよく聞いてしまう子なのかな? いや、ちょっと重心、体幹が独特だ。少し独学のところがあるな。
「次は気泡を抜く。気泡っていうのは粘土内に残っている空気だ。焼き物にした時に割れてしまうからな」
「重要なんだな」
「その通り! まずは右手で起こしながら左方向に回しながら粘土を押す。それをひたすら繰り返す。花を上から見たような形にするのがポイントだ。これを少なくとも七十回、いや百回やる。これで空気を抜く。少しずつ押す粘土の量を少なくしていって、粘土を丸めていく。これで練りは終了」
「よし」
単純作業は得意なのかもしれない。段々と回して練る速さが増している。自分で考えて最適化させている。誰かを師事して一から十まで話を聞くタイプじゃないな。かなりの独学。九割から十割は独学。自分の闘いを俯瞰して眺めて、反省して、それを改善する。そんなことをしているタイプだ。
「できたよ」
「ンあ? あぁ、じゃあ次は成型だよ。遂にね。これは何もアドバイスなんて無いよ。さぁ、自分勝手に作ってみぃ!」
「分かった」
奴は腕捲りをし、粘土と向き合った。
奴はガキだ。人間族のガキだ。町へ行った際に同年代くらいのガキを見たことがあるが、ここまで完成しているガキは初めましてだ。むしろ達観味があって気持ち悪い。
「よし」
奴は皿を作った。細かく、そして力強かった。
「ほぉ」
「で? この後どうすんだ?」
「うん。この後は水気を抜いて、薬を塗って焼いて終わりだよ」
「随分時間かかるんだな」
「焼き物だからね」
頤に触れながら作品を見る。じっくりと観察する。こいつの本質を見抜く。
自分のことをよく分かっていないみたいだな。強くなりたいって想いがあるみたいだけど、何でか自分で分かっていないな。
ほぉ、親がいないのか。この僅かな歪み……母親がいないな。すでに亡くなっている。これは確実かな。父親は生きているな。
でも、ここは力が強い。父親に対して怒りを持っているな。今一緒にいるわけじゃなさそうだな。喧嘩別れだろう。
力強い。その上で繊細である。
強いな。いや、え? これマジで結構強いぞ。伝説級はありそう……いや、あるぞ。
待てよ。まさか。
「ねぇ、君」
「ん?」
「一つだけ質問に答えてほしいんだけど」
「何?」
奴はつまらなさそうに待っている。私は粘土の上を飛びながら、奴のことを見る。
「もしかしてヴォジュア・オールドウッドを倒したのって君かい?」
「ヴォジュ? ちょっと名前知らないから分からない」
「えっと、デッカイ木のモンスターなんだけど」
「あぁ、あのデッカイ奴」
やはりそうだ。こいつがヴォジュア・オールドウッドを倒した者だ。
成る程。だからロザリオはこいつをここに送ってきたのか。
「フッフッフ」
「ん?」
「アーハッハッハッハッ!」
私は笑った。笑いながら飛び回った。腹を抱えて笑いながら、縦横無尽に飛ぶ。
「ハ?」
その反応を疑問に思っているのか、眉根を寄せている。しょうがない。突撃だ!
「トゥ!!」
「ホイ」
「グェエッ!?」
突撃を敢行すると、こいつは私の首根っこの服を掴んできた。首が締まってしまう。自然と咳が出てしまったぜ、チクショウ。
「あ、あぁ、ごめん。でも、突っ込んでくるから」
「確かにこれは私の責任だ。ちょっと調子に乗りすぎた」
ぐったりした状態でこいつの手に乗る。
「君、名前は?」
「僕はユーヤだ」
「よし、ユーヤ! 私は参加するぞ!」
「……? 参加?」
「……? 月霊祭の件で来たんだろ?」
「あ、あぁ、知っていたのか」
「まぁね。ということで参加を表明するぜ。それをロザリオに伝えるといい。あ、あと、これも渡しておいて」
「え、あ、うん」
私は机の上にある焼き物を指した。
後日、ロザリオは頭を抱えることになる。
その焼き物には、テメェ約束破ったなぁ? というメッセージがビンビンに乗っており、菓子折りを持って謝りに行くことになる。




