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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
1.ミデリー・ランレイグ
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2.自ら村を出るクラリス

 カツコツと廊下に靴音が響く。私はこの音が好きだ。何となく格好よく感じるからだ。

 靴音で少しだけ精神を落ち着ける。……落ち着けた気がしない。


 当たり前だ。私はこれから村を出て行くことを村長に告げるのだ。村外とのかかわりをなるべく持ちたくない賢人会が何を言うのか、分かったものではない。


「フゥー」


 大きく息を吐き、脱力。大丈夫。いざとなれば無理にでも外に出て行く。できなければエルフの恥だ。


 コンコンというノックオンに対して、入りなさい、と厳かな声が返ってきた。

 暖簾を開いて中に入ると、そこには通常話をすることさえ許されない程の、位の高い方々がいらっしゃった。

 五名の眼がすべてこちらに向く。五名のうちの真ん中、賢人会の長であり、私の母であるクラリスが口を開く。


「今日は何の用かしら。これでも私達、とても忙しいの」


 優しい声音。だというのに、息を呑んでしまう。その緊張感に満ちた表情を、賢人会の方々は下卑た笑みで見守っていらっしゃる。


「クラリス様並びに賢人会の皆様。私クライネは、ここヴーヴーワラスタを出たいと思っております」


 空気が変わった。とても高圧的だ。一般的な村民がこの圧を受ければ、気絶もしくは失禁しているだろう。


「貴様、言っていることが分かっているのか!」

「外に出るだと? いったい何を考えている!」

「貴様はそれでもクラリス王女の娘にして、次期女王候補! その意味が分からんはずがない!」

「それすら分からなくなったというのであれば! 再び教育を施さなければなりませんな!」


 随分でうるさい羽虫どもだ。最初から貴様等のことなどどうでもいい。これは最初っから私と母の話し合いなのだ。


「お母様」

「何? クライネ」

「これは国益やら何やら、何もかもが関係ありません。単なる私の我儘です」


 それを聞いた四人の賢人はギャーギャーと騒ぎ出した。

 賢人会は偉大な方々の集まりだ。それを違える心算はない。しかし、今この場において、彼等彼女等は親離れを目指す子の邪魔をする老害でしかない。


「貴方がそこまでする理由は何?」

「私はとある少年に命を救われました。少年は私のことに気付いていたか分かりません。しかし、私は救われたことを知っています。これのお礼をせずに、のうのうと生きていくなど私にはできません。それができるなど、エルフではありません」

「そうね。たとえそれが仲の最悪なドワーフであっても、礼をするのは当然ね」


 私の言葉に、母は流し目で賢人達を見た。四人の賢人は唇を引き結んでいる。ここで私を引き留めるには、礼をするという高尚な行いよりも高尚なことがあることを証明しなければならない。もしそうなったら、その間にトンズラだ。


「許可しましょう」

「え」


 え、今なんて。


「外へ行き、礼をしたいのでしょう? 許可します。ただし、貴方が満足するまで戻ってくることは許しません。良いですね?」

「……はい」


 優しい母の笑みを向けられ、私も口角が上がる。


「よろしい。では出立の準備をしなさい。あ、そういえば」

「何でしょう」

「三か月に一回でもいいから手紙を出しなさい。いわゆる近況報告です」

「分かりました」


 私は深々とお辞儀をした。


「礼だ」

「……はい?」

「礼をするだけだぞ」


 凄く念を押してくる。この方々は良くも悪くも典型的なエルフだ。排他的で頭が固い。

 一見、私の意見を呑んでいるように見せて、自分達の思い通りにならないことに苛立っている。そのうえで、自分達が不利にならないように立ち回っている。これが本当に賢人の姿か?

 分かりやすく氷点下の眼差しをくれてやる。賢人達は耐えられなくなったのか、分かりやすく目を逸らした。それでも本当に賢人か?


 視線を母様に向ける。母様は仕方ない人達だと言わんばかりに眉を弓なりに曲げていた。いえ、母様は叱る側でしょ?


 母様には母様の立場があるから、我慢しっぱなしなのだろう。いつか、そんな母様を救いたい。

 しかし、今の私は礼をするのが精一杯。その方が先だ。


 さて、ヴォジュア・オールドウッドを倒した少年よ。今、貴方様はどちらにいらっしゃるのですか?

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