6.ドン引くユーヤ
「あれも写実主義とかいうものなのか?」
「……あれを見たことがあるのかい?」
「熱を出した時に見た夢で」
「……すまんな。それは写実主義じゃないや」
「じゃあ、何?」
僕は都心の風景に、宙に浮かぶ無数の黒服を着た男が描かれている絵を見つけた。夢で経験したことも写実なのかと思ったが、どうやら違うらしい。呆れられてしまった。
「こういうのは超現実主義っていうんだ」
「これが現実なの?」
「現実じゃなくて、超現実。そいつの中にある無意識の世界、夢の世界、理性にコントロールされない世界、現実じゃあ再現できない事物が背後にある世界なんかを模索して、種族とかそいつとかから解放された精神を新しい絵画として描くんだ」
「ごめん。途中から分からなくなった」
「素直に言えるのは美徳だぜ」
世界が二、三個作られたところ辺りから分からなくなってしまった。素直に謝ると、褒められる。
「やっぱ駄目だな」
「何が?」
「アートを理解できない」
これまた素直に告げてみる。
クンは赤い絵の具が付いている顎に触れる。
「アートは難しいからね」
受け入れられた。
「君はさ、嘘ってどれくらい見抜ける? どこが嘘で、どれくらいの嘘で、どんな嘘で、何で嘘を吐いているのか。それらを見抜けるかい?」
「無理だろ。僕はそれができるくらいの会話をしたことがない」
「悲しいこと言うなや!」
クンに頬を蹴られた。というか、何で嘘?
「いいかい? アートとはね、壮大な嘘なのさ。その時にないものをあるように見せるもの。それがアートなのさ!」
何を言っているのか分からない。嘘とかないものをあるようにとか言われてもよく分からない。
「アートっていうのはね、管理に対する反抗なんだよ。世界がこうあってほしい、とか、自分はこうありたい、とか、そういうのを描くのがアート! 自分の伝えたいことを伝えるのもアート!」
どう? みたいな顔がむかつく。
「くっ! なら、ホスピタルアートっていうジャンルもある」
「ほす?」
「病院で使われているアートさ。患者の精神に作用して、治すスピードが変わるんだぜ」
「ホントか?」
「あぁ、薬の投与量が減少したり、鬱状態が三割以上は減少したりしているんだぜ? 凄いだろ? アート」
「それは凄いな」
半分以上理解できていないけど。どうしてアートでそこまで減少できるのかが分からない。それが解らないと怪しい。
「アートとは種族やそいつの本質を映し出す鏡なんだ! だからこそ、異性へのアピールにもアートが使われるんだ!」
うるせぇ! と怒鳴ってしまいそうだ。アートの押し付けがひどい。僕はそこまで興味がないんだけどなぁ。
確実にアートを理解させようとしてきている。え、僕はこれを説得しなきゃいけないの? これが月霊祭に来なきゃいけない理由はなんだ?
「さて、ついたぞ。ここが陶芸場だ!」
何で? 郷は? 郷で座ってお話し合いするんじゃなかったのか?
「話し合いの前に、君にしてほしいことがある」
うわ、面倒事が始まった。
「私はね、ちょっと特殊な技能があってね。芸術作品を見ると、その人のことを知ることができるんだ。アートとは種族やそいつの本質を映し出す鏡だからね」
「……作り方から知らないんだけど」
「あぁ……じゃあ一緒に作ろうか。真似はすんなよ。自分のを作れ。これはオレノダ~って胸を張って言えるものを作れよ」
「分かったよ」
面倒だ。本当に面倒だ。どうして僕はこれから陶芸を作らなければいけないのだ。僕はただ強くなりたいだけなのに。
まぁ、テキトーに作ればいいのだが、それは嫌なので本気で作ってやるか。




