5.ビビるユーヤ
僕は馬鹿だ。学がない。だからこそ文字が読めない。
つまり何が言いたいかというと、僕は地図が読めない。
上下すら分からず、ずっとくるくるさせている。本当にどうやって見るんだ?
ちなみに精霊の郷に向かえているのかどうかで言えば、きちんと向かえている。森の中にモンスターがいない謎の空間があるのだ。そこに郷がある。本能的にそうだと思う。
獣の皮に描かれた地図に眉根が寄る。裏にも何か書いてある。しかし、文字なのだ。これも文字。読めない。
「何が書いてあるんだ? 結局。くっそ。クライネに聞いておけばよかった」
後頭部をガリガリと掻く。
まぁ、さっきから視線が増えてきているから、こっちで合ってんだろうな。視線的に八体か?
カツン。
「ん?」
足に何かが当たった。何だ? 少し屈んでその何かを摘まみ上げる。
茶色い、何か。硬いな。割れている、器? ……本当に器かな、これ。市場での陶芸品くらいしか見たことないが、あ、これ、陶器か。
だとして、何で陶芸品?
「何かよく分からないけど、綺麗だな。持っていくか」
ポケットに入れておく。何の役に立つか分からないしな。
周りがざわざわし始めた。何だ? 取っちゃいけなかったのか? まぁ、僕はこういう芸術とかアートとかは分からない。本当に直感でしか見ることができない。彼等にとってはとても重要なものなのかもしれない。
精霊は陶芸を嗜むようだが、もしかしたら市場にある陶芸品は精霊の作品なのかもしれない。
「……は?」
目の前の木には絵画が立てかけてあった。
「絵?」
何でこんなところに絵があるんだ? 誰かが捨てたのかな? もしかしたらさっきの陶芸品も、ここに壊しに来たのかもしれない。
僕は絵をよく見ようと屈む。白い翼を持つ女性の絵だ。有翼人族かと思ったが、頭上に光輪がある。何だこの種族。淡く光っているように見える。これを描いた者はこの光輪を見たことがあるのだろうか。
ちなみに僕は翼のある種族に会ったことがない。
「……綺麗な絵だな。まぁ、僕はそれくらいしか分かんないけど」
「それで構わないのさ」
こちらを観察していた者の内の一人が声を出した。そちらに顔を向けると、小さい何かが凄い勢いで来ていた。
「ブッ!?」
腹の上方中央にある窪んだ部分に小さい何かが突っ込んできた。僕はその部分を押さえながら木に凭れる。
小さい何かは頭を押さえながら、足をバタつかせている。
「何だ、お前」
「ォ~~~、……フッフッフ。私は精霊族の族長のクンだ!」
羽をパタパタとさせながら、胸に手を当て、張っている。
成る程。僕はこいつを説得するのか。会話をまだまともにしていないが、僕には分かる。こいつは癖が強いぞ。
「この絵は私が天使族のジェリエちゃんに会った時を描いたものだね」
「天使族」
「これは写実主義と言ってね、現実をあるがままに再現することを目標とする描画の技法さ」
「じゃあ、クンにはジェリエとかいう天使族がこう見えているってことか」
「そういう事だね」
クンが自作の絵画の説明し始める。
「そもそも神話とか歴史とか宗教とか、そういうのを題材にするのが一般的なんだ。私の日常的な出会いとかを題材にするなんて普通はしない」
「……そうなの?」
「そう。情緒過剰、現実逃避的、そして理想を追い求める、ロマン主義が主流なんだ」
写実とかロマンとか何を言っているのか分からねぇ。そして、クンの目を見ればわかる。この喋っている時間、そしてそんな自分の姿に酔っているのだ。
「このジェリエの絵の後ろに描かれているのは何?」
「ジェリエと会ったのが超北方にある氷雪の森でね、後ろにいるのはサメゼロポニーとスザドリーブラストだよ。氷雪を舞う蝶と氷を纏う馬。あれはあれで美しかったからね、別で絵に描いてあるんだ。見るかい?」
「いや、いいかな」
「何で?」
僕は絵に興味がないからだ。興味がない、というか分からない。分からなかったり知らなかったりするものはつまらないという評価になりやすいからな。
「まぁいいや。お前、ロザリオの使者だろ」
「あぁ、分かっていたんだな」
「まぁね。でも、本人が来いっていうんだ」
それには激しく同意だ。
「ま、そんなこんなで私達はお話し合いをしなきゃいけないんだ。だから郷で座って話し合おうじゃないか」
「分かったよ」
クンが郷に向かって飛び始めた。僕はそれを追うように歩き出したのだった。




