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僕はただ強くなりたいだけなのに  作者: suger
2.エル
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4.警戒するクン

 ピチャピチャと絵具缶の中で、筆をバウンドさせる。


 違うな。青の絵の具じゃないな。黄色か?


 私はイーゼルに立てかけた絵を真正面に見える枝に座る。

 赤の絵の具が付いている鼻を触りながら考える。


 この絵は未完成だ。他の精霊が見たなら、完成品だと判断してしまうだろう。


 しかし! これは未完成だ!


 なぜ未完成かって?

 そう直感が告げているんだ! これは、未完成である! と!

 何だ? どれだ? どの色の何を描き足せばいい!?


「うごごご」


 私は髪をぐしゃぐしゃに掻き毟りながら、足も暴れさせる。

 もういい! 直感だ! 直感に任せよう! カマン! 赤の絵の具ッ!?


「クン様~~!!」

「チッ!!」


 邪魔が入った。絵を描くときは絵のみに集中したいんだ。誰かと話しながら絵を描くなど邪道。私が歩みたくない道だ。

 気持ちを切らされてしまい、若干ブチギレながら呼んだ奴を見る。


「……何?」

「え、いや、えっと、あの」


 私の圧倒的不機嫌を感じ取った精霊が、言葉だけでなく体まで震わせてしまっている。とっとと話せ! 私は早く絵を描きたいのだ!


「も、も、もも」

「桃?」

「森に人間が来ました~~!!」

「は?」


 この森に人間が入ってくるなどいつものことだ。行商人なんて年中やってくるじゃないか。そんなことでいちいち私に報告しに来んな。とっとと帰れ! 私は絵描きを再開させるぞ。


「で? 何が言いたいの? 人間が入ってくるなんていつものことじゃん」

「そ、それが、こっちに向かっているんですぅ」


 腕をブンブンとさせながら、こっちに叫んでくる。


 温度差エグイな。


 私はこいつの言っていることの重要性が分からない。何にこんな焦っているのだ?


「それが何? 重要性は? 私等が被る害は?」

「え? え? え?」


 質問が多すぎたようだ。仕方がない。一個ずつにしよう。


「そいつはどんな姿だったの?」

「ん-と、人間族の……子供? 背とか肌とかから子供だと思う。あ、剣! 剣を持ってたよ! 地図も見てた。……鎧は着てなかったよ」

「ふ~ん。剣は普通かな。この森ならモンスターが出るわけだし、武器の携帯は当たり前だね。鎧じゃないのは、まぁ、そういうスタイルってことかな」


 私は脚を組み、話を整理していく。


「地図が手持ちにあるってことは目的地があるってことじゃん。ということは、マジでここに来るのかもしれないね」

「何でそんなに冷静なんですか!?」


 むしろ焦る理由は何? どうせロザリオの依頼の話だろ? 今、私は絵の方が大切なんだ。絵は送ってやるが、月霊祭に顔出してやんねぇぞ、メンドクサイ。説得すんならヴォジュア・オールドウッドを倒した方とその報告に来いってんだ。

 まぁ、精霊族同輩皆はそのことを忘れているっぽいな。私含めて精霊族は記憶力が悪い。自身を表現するアートのスペシャリストであるが、それ以外は極めてポンコツだ。


 じゃあ改めて教えるかっていうと、これはこれでメンドクサイ。


 ……乗っておくか。


「焦って何かが変わるというのなら、私も大変焦ってやろう。でも焦ったって何も変わらない。それどころか悪い方に進んでしまうだろう。だから努めて冷静にいるのさ」

「成る程~~! さっすがクン様!!」


 簡単に乗っかってくれた。


「まぁ、何もしないわけにはいかないか」

「そうですね。どうしますか!?」

「まずはとりあえず警戒だね。勝手に接触しちゃ駄目だよ。どんな相手か分からないからね」

「承知!」

「まぁ、監視は続けてくれると助かるな」

「承~~知ッ!」


 精霊が飛んで行った。


 さて、あの子の名前は何だったかな?

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