4.警戒するクン
ピチャピチャと絵具缶の中で、筆をバウンドさせる。
違うな。青の絵の具じゃないな。黄色か?
私はイーゼルに立てかけた絵を真正面に見える枝に座る。
赤の絵の具が付いている鼻を触りながら考える。
この絵は未完成だ。他の精霊が見たなら、完成品だと判断してしまうだろう。
しかし! これは未完成だ!
なぜ未完成かって?
そう直感が告げているんだ! これは、未完成である! と!
何だ? どれだ? どの色の何を描き足せばいい!?
「うごごご」
私は髪をぐしゃぐしゃに掻き毟りながら、足も暴れさせる。
もういい! 直感だ! 直感に任せよう! カマン! 赤の絵の具ッ!?
「クン様~~!!」
「チッ!!」
邪魔が入った。絵を描くときは絵のみに集中したいんだ。誰かと話しながら絵を描くなど邪道。私が歩みたくない道だ。
気持ちを切らされてしまい、若干ブチギレながら呼んだ奴を見る。
「……何?」
「え、いや、えっと、あの」
私の圧倒的不機嫌を感じ取った精霊が、言葉だけでなく体まで震わせてしまっている。とっとと話せ! 私は早く絵を描きたいのだ!
「も、も、もも」
「桃?」
「森に人間が来ました~~!!」
「は?」
この森に人間が入ってくるなどいつものことだ。行商人なんて年中やってくるじゃないか。そんなことでいちいち私に報告しに来んな。とっとと帰れ! 私は絵描きを再開させるぞ。
「で? 何が言いたいの? 人間が入ってくるなんていつものことじゃん」
「そ、それが、こっちに向かっているんですぅ」
腕をブンブンとさせながら、こっちに叫んでくる。
温度差エグイな。
私はこいつの言っていることの重要性が分からない。何にこんな焦っているのだ?
「それが何? 重要性は? 私等が被る害は?」
「え? え? え?」
質問が多すぎたようだ。仕方がない。一個ずつにしよう。
「そいつはどんな姿だったの?」
「ん-と、人間族の……子供? 背とか肌とかから子供だと思う。あ、剣! 剣を持ってたよ! 地図も見てた。……鎧は着てなかったよ」
「ふ~ん。剣は普通かな。この森ならモンスターが出るわけだし、武器の携帯は当たり前だね。鎧じゃないのは、まぁ、そういうスタイルってことかな」
私は脚を組み、話を整理していく。
「地図が手持ちにあるってことは目的地があるってことじゃん。ということは、マジでここに来るのかもしれないね」
「何でそんなに冷静なんですか!?」
むしろ焦る理由は何? どうせロザリオの依頼の話だろ? 今、私は絵の方が大切なんだ。絵は送ってやるが、月霊祭に顔出してやんねぇぞ、メンドクサイ。説得すんならヴォジュア・オールドウッドを倒した方とその報告に来いってんだ。
まぁ、精霊族同輩皆はそのことを忘れているっぽいな。私含めて精霊族は記憶力が悪い。自身を表現するアートのスペシャリストであるが、それ以外は極めてポンコツだ。
じゃあ改めて教えるかっていうと、これはこれでメンドクサイ。
……乗っておくか。
「焦って何かが変わるというのなら、私も大変焦ってやろう。でも焦ったって何も変わらない。それどころか悪い方に進んでしまうだろう。だから努めて冷静にいるのさ」
「成る程~~! さっすがクン様!!」
簡単に乗っかってくれた。
「まぁ、何もしないわけにはいかないか」
「そうですね。どうしますか!?」
「まずはとりあえず警戒だね。勝手に接触しちゃ駄目だよ。どんな相手か分からないからね」
「承知!」
「まぁ、監視は続けてくれると助かるな」
「承~~知ッ!」
精霊が飛んで行った。
さて、あの子の名前は何だったかな?




