2.依頼を頼まれるユーヤ
ナミビエの森。
それが僕がかつて巨木モンスターを倒した森の名前だ。
この森は殺意が高すぎるため、商人達は入りたがらない。ある特定の道筋を通らなければ、モンスターに蹂躙されてしまうらしい。そんなことから「入るな」を意味するナミビエの名前が付けられている。
クライネの出身地でもある。
僕は今、そんなナミビエの森に来ている。
なぜ来ているのかと言えば、あの日、トゥインシーから依頼を受けたからだ。
「では、伝えさせていただきます」
「あぁ」
トゥインシーは懐から一枚の木簡を取り出した。
「えぇ~、ゴホン。ユーヤ君、お久し振りだね。本来なら少しアイスブレイクをしたいのだが、早速本題に入らせてもらおう」
「なぁ、アイスブレイクって何?」
急に知らない言葉が出てきたため、クライネに説明を求める。クライネは丁寧に答えてくれる。
「アイスブレイクは、話の本題に入る前に行われる、短い雑談や遊びのことです。特に、知らない方と話すのは緊張しますからね。硬く張り詰めた氷のような空気を崩すことからアイスブレイクと言います」
「成る程ね、遮って申し訳ない」
「いえ、続けさせていただきます」
待ってくれていたトゥインシーが話を再開させる。
「もうすぐ月霊祭が行われる。実は、レイベルス王国、ないしヒッパクト家は精霊にとある依頼を出している。その受け取り、および、月霊祭の参加の交渉をしなければならない。しかし、私は別件で他国に渡っているため、行くことができないんだ。そこで、その役を君に託したい」
「何でだよ」
しまった。思わず突っ込んでしまった。また途切れさせてしまった。
だって仕方ないだろう? 何だ? 他国に行っている? それで僕に任せたい? 何じゃ、それ!
「……すみません。私には、その、決定権がありませんので」
「……いいよ。別に。受けるよ。別にアンタを責める気なんてないし」
「良いのですか? ユーヤ様。自身の鍛錬の時間が盗られてしまうのでは?」
「森でモンスター狩るからいい」
「では、受けていただける、と」
「あぁ、場所は教えてくれ。僕達で行くから」
「かしこまりました」
「あの」
「ん?」
猫獣人の騎士が別れようとすると、クライネが止めた。
「私、精霊族は良いのですが、その、族長のクン様とは会いたくないので、私は行けません」
「……一人でも構いません。重要なのはユーヤ様とクン様を会わせることなので」
あの時、ちゃんと疑問に思っておけばよかった。なぜ会わせることが重要なのか。
チラと道のない木々の隙間を見れば、リスやポートルーツがチョロチョロと走っている。
僕は滅多に見ないモンスターの名前を知らない。市場にも出回っているような、人の話に出てくるようなモンスターしか知らない。
リスはペットとして売っているのを見たことがある。
ポートルーツは果実のような見た目をしている。汗が甘味料として活用されているらしい。
しかし、僕の目の前で唸っている、灰色の毛並みをした犬のようなこいつは知らない。
僕は左腰に付けた剣に意識を移す。
ミデリーにボコボコにされた翌日、剣が届いた。井戸のお詫びらしい。市販のものと比べると少し軽く、扱いやすい。ミデリー曰く、かなり丈夫で壊れにくいとのこと。
これの試行とするか。
灰色犬のモンスターを睨みながら、剣を意識する。灰色犬のモンスターが噛みついてくる。
僕は高速で剣を抜き、首を切り落とした。
「マジか」
僕は剣を見つめる。感触がいつも以上にない。軽い。いや、それだけじゃない。鋭いのだ。よく切れる。
「……もうちょっと切れ味を試したいな」
精霊と会う前に、モンスター狩りをしよう。




