1.月霊祭前のユーヤ
月霊祭
七月二十六日(土)十六:〇〇~二十二:〇〇
出店:炒め麺・具材を挟んだパン・フルーツ・氷菓子・焼き鳥・焼肉・野菜の漬け和え・絵画・お面・酒
催し物:腕つけ大会・踊り・歌
……月霊祭。読めない。
僕は馬鹿だ。学がない。だからこそ、文字の読み書きができない。
「う~~~ん?」
僕は村の広場の真ん中で、大きく首を傾げた。
何か分からない。夏のこの時期に何かお祭りをやっていた気がするのだが、あれのことだろうか。何しろ僕は普段から家に引き籠っている。祭りの時期なんてさらに奥の森に引き籠っているので、さっぱりだ。
僕が今この広場にいるのは、クライネの付き添えだ。彼女の買い物の荷物持ちとも言う。
そのため、僕の両手にはすでに芋やら乳やらがいっぱいに入った袋がある。
「何て読むのか分っかんないな。クライネなら読めんのかな」
「お待たせいたしました」
「ん」
ポツリと呟くと、後ろから声がした。クライネである。
振り向くと、もちろんクライネがいる。しかし、見慣れた姿ではない。
肩口で切り揃えられた緑がかった金髪には、リボンやらアクセサリーやらが括られている。緑を基調としたワンピースにはアクセサリーやら蟲の抜け殻やらがくっつけられている。
「この村の子供達は恐ろしいですね」
「僕と同年代のはずなんだけど」
どうやら子供の悪戯らしい。少し買い物に時間がかかっているな、と思っていたが、地元住民との交流をしていたのか。
「そろそろ帰りましょう」
「あぁ、あ、ところでさ」
「はい?」
「クライネって文字が読めるの?」
「読めますよ、一通りは」
どうしてそんなことを聞くのか、という顔をしている。
「あの建て看板に書かれているやつなんだけどさ」
「あれは……月霊祭の予告ですね」
「月霊祭」
僕の指した先にある看板の文字をクライネが読む。僕はそれをそのまま返した。その返しで、僕がピンと来ていないと察したクライネが説明してくれる。
「月霊祭とは、毎年夏に行っている伝統的なお祭りです。死者のことを思い返し、その者達へ感謝をしよう、という日になります。七月二六日に開催されるそうですよ。参加されますか?」
「感謝するだけだろ? 参加しなくてよくない?」
「あぁ、申し訳ありません。出店がいくつかあります。お肉やお魚、野菜や果物などのお店が出るようです」
「へぇ、成程な」
「催し物として踊りや歌、後は腕つけ大会もするそうですよ」
「そっちは興味ないや」
「そうですか」
踊りは踊れないし、歌は知らない。最後の腕つけ大会に至っては聞いたことがないのだから、興味が湧くことがあるはずがない。
「まぁ、出店の方は興味はあるから、食べ歩きで参加しようかな」
「では、当日は参加の方向で」
月霊祭というのはよく知らないし、分からない。しかし、祭りと言っているのだ。きっと楽しいに決まっている。
帰り道、後ろを歩くクライネに対して話を振る。
「クライネは月霊祭に参加したことがあるの?」
「ないです。私も初めて参加します」
クライネも知らないのか。
参加するのに何か届け出が必要なのだろうか。
ん? 家の前に人がいる。
「誰だ?」
「見たことがありますが、どこでだったのか思い出せませんね」
「ロザリオと一緒にいた騎士だったかな」
家の前の騎士がこちらに気付き、振り返ってきた。
「お久し振りです。私はヒッパクト家に忠誠を誓う騎士であります、トゥインシーと申します。以後お見知りおきを。本日はこちらの伝言をお届けに参りました」
「伝言?」
「はい。では、お伝えさせていただきます」
伝言を聞いた僕は、精一杯に苦い顔をした。




