11.怪物のような動きに翻弄されるユーヤ
僕はミデリーの顔を見ながら構えた。
ミデリーは肉食獣のような笑みをこちらに向けてきている。
腕組みをし、堂々と立っているだけのはずなのに、隙が見えない。どうやって隙を作らせるかが重要。今、僕の手にあるのは刃の潰した剣のみだ。遠距離の手段があればいいのだが、さてどうしよう。
「フム。武器はそれだけか?」
「言うわけないだろう」
「それもそうか」
「ところでいつ始めるんだ?」
「うん? あぁ、合図を決めていなかったな。別にも―――
「フッ!!」
話をさせている隙に攻撃をする。
「ナッ!?」
「驚きを顔に出してしまっては弱みになるぞ」
全力で振ったはずの剣が、ミデリーの体を通り抜けた。間違いなく当たったはず。今、この距離を見ても、剣が当たっているべき距離のはずなのに。
ミデリーは腕組みをしたまま、僕の顔面に膝を叩き込んできた。鼻が曲がった。中の骨が折れたかもしれない。中が傷ついて鼻血が垂れ流れてしまう。
しかし、闘志は失わない。
僕は馬鹿だ。重要な基礎知識を持ち合わせていない。それでも考える頭はある。
考えろ。どうして当たらなかった。
「良いぞ。考えるのは素晴らしい。もっと考えろ。脳内で、何度も繰り返せ。可能性をすべて試して、一つの真実に辿り着け」
ミデリーは僕の目では追えない速度で迫ってきた。体が自然と反応する。ミデリーの腰を折る気で刃を潰した剣を振るう。
しかし、ミデリーの蹴りはそれよりも早かった。
僕の胸部にミデリーの蹴りが刺さる。肋骨が折れた。口から何かが出てくるわけではない。むしろ何も入ってくれない。
上から水が降ってくる。
……水?
「あぁ、済まない。壊しちまった」
ミデリーの声が聞こえてくる。何だ? 今、何かを壊したのか? 何かクライネの声も聞こえてきた。
あぁ、まさか、井戸が壊れたのか?
「くっそ」
意識があったにもかかわらず、体が動かせなかった。あの時点で、もう決着は出ていたはずだ。いや、もっと前から決まっていた。剣を躱された時点で僕の負けだ。
しかし、ミデリーは僕を負けさせなかった。僕には分かる。この時間を楽しみたいのだ。ならば、その期待に応えなければならない。
僕が立ち上がる。井戸の制御をしようとしていた土塊が壊れ、水が溢れてしまっていた。
「それは後で何とかしよう。何なら私自身も手伝おう」
「どうでもいい。今は戦闘だ」
「あぁ、済まないね。礼を失した」
駄目だ。隙がない。勝てる光景が浮かんでこない。
僕が地面を爆発させるように走り出す。
机半個分ほどの間を開けて、止まり、剣を素早く振るう。この場にいる者のどれだけがその剣速が見えているのだろうか。
ミデリーはそんな全力の剣速を、最小限の動きだけで躱していく。肉食獣のような笑みは一切崩れていない。
余裕。圧倒的余裕。僕はそこまで弱いのか!?
全力で剣を振るう。ミデリーの笑みは崩れない。それどころか腕組みを解いてすらいない。
ミデリーが僕の攻撃を避けながら、右足の靴を脱いだ。その靴が飛んでくる。
「く!?」
その靴を避けるために首を傾ける。
「そりゃ目で追っちゃいけないよ。隙になる」
「え」
首を戻すと、そこにはミデリーの足裏があった。ムギュリと頬が歪み、そのまま押し込まれていき、倒された。
「ほらよ」
そして、足が離れた隙に逃れようとするが、すぐに胸を踏まれ、押さえつけられた。胸部の骨が折れ、内臓が破裂させられ、押さえつけられただけでも痛みがひどい。
手が出なかった。指先にも、その先の爪にも引っかからなかった。全てが空振った。何もさせてもらえなかった。
どうする? この勝負は負けだ。圧敗だ。ミデリーが強すぎる。どうすればよかったんだ?
「良い顔をするじゃないか、ユーヤ! 良いぞ、私は好きだ!」
「くっそ!」
顔? 今、僕はどんな顔をしているんだ?
「いいぞ。強くなりない。強く在りたい。それが顔に書いてある。好きだぞ! そういう男! まぁ、一番はナルクトだけどな。ホレ」
「ぐぉ」
ミデリーは足を離す瞬間、一度強く踏みつけてきた。
痛みが来るかと思ったが来なかった。
「あれ?」
「理属性の魔法だよ」
ミデリーが剣を引き抜き、腰に付ける音が聞こえてくる。僕は地面に四肢を投げ出したまま、それを捉える。
次は絶対届いてやる。この爪の先だけでも届かせて見せる。




