20.狙われたユーヤ
アラスに入ってから十分後、僕達は合流を果たした。
「少しは疑っていた気もするが、問題ない。このまま行こう」
「あぁ。アイツ等、優秀な兵で体力有りますみたいな顔をしておきながら、十分ちょっとで果てやがった」
「おい、子供の前だぞ!」
何の話だ? 街の雰囲気を眺めながら、僕は2人の話を聞いている。
アラスの街は、今までに見たことない形の街並みだ。武骨で色がない。飾り気よりも実用重視といったところか。
「どうだ? 中央都市の感想は」
「びっくりだよ。行列もそうだったけど、あんなに人がいるもんなんだなって」
「そんなド田舎出身なのかよ」
「周りは森だし山だし、村人とは距離を置かれているよ」
「……なんか済まん」
明るいアマゾネス母さんでもそこに配慮はあるらしい。僕は一切気にしていないし、そんな環境だからこそみんなでそこそこ声を出しながら暮らせているから、むしろ感謝さえしている。
行列に並ばされた検問や色鮮やかな鳥獣人族の羽根に、武骨で暗色の目立つ街並み。華やかとは程遠くともにぎやかな街として記憶しておくだろう。
「で、僕は何をすればいいの?」
「街の脆弱な部分と兵力を見るんだ。それを意識しつつ、観光しつつ、観光のフリをするんだ」
「あ~~~、あ~~~?」
「ま、壊せそうなところを見て、戦えそうな人を数えろってことだよ」
「よし、分かった」
僕は2人を率いて堂々と歩く。
ふといい匂いがしてきた。甘辛いタレの焼ける匂いだ。匂いの元の店を見る。串焼き屋、美味そう。
「お、買うか?」
「いいのか? さっき通行料を払ってたけど」
「その程度で枯れる資金は持ってきていないさ」
クリントが串焼き屋の店員にお金を払っている。そして、串焼きを買ってきた。
「そら、我々も食べよう」
クリントが僕とワインズに串焼きを渡した。
口に入れると、ジュワと肉汁が溢れてきた。旨い。これのために争いが起こっているという噂を信じてしまいそうだ。そんな噂、一切ないが。
「……何か、後を付けられていないか?」
小声でクリントが告げてくる。
「今か、クリント? そりゃちと遅いぞ」
ワインズが裏路地へ入っていく。それについて僕も入っていく。
どんどんと奥の方へと入っていき、暗がりへ。
「よぉ、ご家族。そちらは何もございませんよぉ?」
左目に眼帯をした長身の男性が前に現れた。
「な~~んでこんなところまでお越しになったんですか? クソマレットス兵士さんよぉ」
おっとバレていたようだ。来た道にも男女が塞ぎにやってきた。
「我々がマレットス兵? いったい何を仰っているのです? 何を根拠に」
「おいおい、言い逃れする気かい? クリントさんよぉ。それに、そっちの女はワインズだろぉ? そっちのガキはァ……ガキはァ……誰だ、お前?」
狼獣人がニタニタしながら正体を暴いていくが、僕には真顔となった。僕のことが分かっていない。
「僕はマレットス兵じゃないぞ」
「じゃあ、何だ。何でここにいやがる」
「自国の名前は分からん。あ、いや、レイベルス? レイベルスって国ある?」
「ある」
「じゃあ、レイベルスな気がする。何で、は、エルに頼まれたから」
「エルと知り合いの時点でマレットス兵と同類だ!」
そう叫ぶと、囲んでいた男女が飛びかかってきた。
クリントは長剣を抜き、ワインズは格闘の構えを取った。僕も剣に手を掛ける。
正直、動きが遅い。これまで戦ってきた強敵に比べて、明らかに弱い。
剣を抜き、味方や建物を傷つけないように、控えめに振る。剣はほとんど引っ掛かりを見せずに、肉体を斬っていった。
「う、らぁ!!」
上裸の男性が拳を繰り出してくる。剣を合わせると、少しだけ抵抗があり、しかし、二股に切り裂いた。
「ハッハッ! 稚~魚、稚~魚♡」
それを見たワインズが男性を煽るように発言すると、彼はキレた。
「ガァアアア!!」
それを冷静に対処する。屈みながら両足を斬り、バランスを崩したところで首を斬った。一振り一殺を心掛けたつもりだが、この男性は三振りもかかった。失敗、失敗。
「な、な、な」
狼が狼狽えながら後退ったかと思うと、一気にダッシュした。
「舐めるな!」
狼はワインズに襲い掛かり、がぶりよつで組んで押し倒した。
力が拮抗している。一度倒されてから、押し込まれも押しどかすこともできない。少しでも気を抜いたり、別のところに意識を割いたりすれば、押し込まれて致命傷を負うことになる。
そこに殺到しようとする男女を切りながら肉薄し、狼獣人族の男性を蹴飛ばした。ただどかして距離を作ることが目的だったのだが、狼の頭が弾け飛んだ。
勢いそのままに地面や家屋の壁に血が付いていく。それを見た男女が走り去っていった。
「そ、そんなに強かったのかよ。初対面で子宮が反応していたけど、今は疼きっぱなしだ」
「別にそれはいい。今はエル様達と合流しなければ。これは早々に騒ぎとなるぞ」
クリントがこちらを手招く。僕はワインズを起こしてついて行く。
外へ向かうように走っていると、何かしらが飛ぶ音を聞き取る。鳥じゃない。この音は細長い形状。龍か?
「見えたぞ、門だ」
「でも、兵が塞いでんぞ」
「あれくらいならいける」
僕が足の回転を速くする。それだけでぐんぐんと速度が増し、すぐさま兵の前に辿り着く。
「な、いつの間に⁉」
「何だ、おヴぁッ!?」
「はぎゃ⁉」
素早く3人を斬り、扉に鍵をしている鉄棒を切断。しかし、鉄棒は10m程上までにあと4本あり、面倒。そこで僕は金属製の扉を斬り、人が通れる穴を作った。
そして2人が合流する。
「早いな、ユーヤ」
「本格的に理性が」
クリントの感嘆は分かるが、ワインズの感想は何だ? 理性が何だというのか。
聞くと沼に入りそうなため、無視して走り出す。
ゾクリと背筋が反応した。
「龍だ!」
「な、龍⁉」
「本当に龍だ。だが、サワタマルクではない」
「何か飛び降りて」
「アイネだ」
突如として現れた濡れ羽色の鱗の龍の上から、アイネが直下してきた。地面に直撃直前、翼を展開して空に留まる。アイネは大きく翼と腕を広げ、こちらに差し出してきた。
「行くぜ!」
「おう!」
差し出された手を掴むと、ぐいと引っ張られて胸に抱き止められた。
「ほら、お前等も」
「は、はい!」
アイネの両腕にそれぞれクリントとワインズが掴まった瞬間、アイネは飛び上がった。
「ホイ」
濡れ羽色の鱗の龍の上に乗り、合図を出して走らせる。
「クリント、ワインズ、報告を」
エルに言われ、2人がそちらに行ってしまった。
1人となった僕はアイネの横に座る。クライネがクッションを敷いてくれた。
「この龍は?」
「ん? こいつはミョルスイル。龍族でありながら上級にいる雑魚だ」
「そんな言い方していいの?」
「こいつはそれすら喜ぶ変態だよ」
僕は少し引きながら、鱗の1枚を撫でた。




