19.中央都市に辿り着いたユーヤ
すでに4日が経っていた。いくつかの村町を通過している。
気付かれないように少数且つ服装を変えている。エンブレムを隠し、鎧を脱いでいる。
気付かれてもいいように、伝説級や神話級の戦士のみで構成されている。
「あれがアラス。凄い高い壁に囲まれているね」
「城郭都市だからな」
遠目に覗くが、街の様子が一切見えない。僕の知っている中央都市とはだいぶ格差のある光景だ。
真面目な話、ここに来るまでの間、不安や緊張状態が続いてしまっているため、心的疲労はかなりのものになってしまう。
「町には普通に入れるのか?」
「まずは偵察からだな。これよりももっと少数で潜入する」
「どなたが行くのです?」
エルの考えに対し、バンバンイルが前に出てくる。真っ黒な印象を持つ吸血鬼のことを、エルが睥睨した。
「私は顔が割れている。これまでは小さな町とか村だったから誤魔化せたが、この町じゃ流石に無理だ。それに、バンバンイル、お前も無理だからな」
「ムぐッ⁉ で、ですが、仕方ありませんね」
「そう言うことで最近伝説級になったばかりのクリントとワインズと、特に兵と関係ないユーヤ」
「え、あ、僕も? 別にエルの役に立てるならいいんだけど」
急に名を呼ばれ、少し驚いたが、エルに頼られているのなら吝かではない。
「お願いね?」
「偵察って何すればいいの?」
「そこのワインズがプロだ。そいつに頼れ」
僕は隣を見る。褐色肌を惜しげもなく晒す、布面積の小さな女性。おそらくこいつがワインズ。少しだけ首を傾げてこちらを覗きながら手を振ってきた。
「私等はバレるとマズいから森に潜伏している。何かあれば合図を放つか、戻ってこい」
「はい」
「じゃあ、行ってこい」
走り出されてから二分後、クリントがこちらを向いた。
「我々の設定について話そう」
「設定?」
「正直に話すことなどできないからな」
それはそうか。馬鹿正直に偵察に来ました、などと話せば処刑対象だものな。
「まず私。私は旅行に来た家族の父親、グリーン。人間族の31歳。一番楽しみにしているのはオルフェレン劇場」
クリントがワインズを指す。
「私の後妻であるビーリュ。アマゾネス族の……何歳にしようか」
「23歳で」
「まぁ、後妻だからいいか。一番楽しみにしているのはクレイマン服飾店」
「分かった」
「最後にユーヤ」
「うん」
「私と前妻マミィの息子。何族の何歳にする?」
「人間族の12歳、いや、13歳だっけ?」
「13にしておこう。一番楽しみにしているのはグァリヴァス競技場」
「何だ、そこ」
僕は単純に競技場に反応した。それにワインズが返答する。
「自称強い奴等が集まって乳繰り合う場所だ。自称だから実際は弱いぞ」
「何だ、それ」
こちらにジトっとした目をクリントが向けているが、何を思っているのだ?
「ちなみに、アラスのことはどれくらい知っている?」
「ガンドスという国すら今回初めて知ったぞ」
「……じゃあ、少しだけ説明しようか」
検問の行列に並びながら、クリントが僕の顔を見た。
「次! は、家族連れか。済まないが、今検問は厳しくしていてな。一人ずつ質問させてもらうぞ」
いかつい顔をした検問官が、3人を別々の部屋へと案内する。僕が入る部屋には、片肩に大量の羽根を付けた細身の男性が座っていた。
「……綺麗だ」
「ん? これか?」
僕の呟きに反応して、男性が羽根に触れる。
「うん、そう」
「ハハ、ありがとう。妻から抜けた羽根でね、無理に押し付けられたんだ」
「妻の羽根?」
「あぁ、妻は鳥人族でね。鳥人族は夫の無事を願うのに、自分の羽根を服に縫い付けさせるという風習があるらしい」
改めて羽根を見る。10や20ではない。かなりの量の羽根だ。
「相当愛されているんだな」
「心配性なくらいさ。というか、子供に何話しているんだ、俺。さ、質問していくよ」
「あい」
男性は身動ぎして、机の上のメモ用紙に向き合った。
「まず、君の名前を教えてくれるかな」
「ユーヤだ」
「種族と年齢は?」
「人間族の12歳」
「何をしにアラスまで?」
「家族旅行。何だっけ、クレイマン競技場? いや、オルフェレン競技場? あれ? グァリヴァス競技場?」
「クレイマンは服飾店、オルフェレンは劇場だぞ。最後のグァリヴァス競技場は合っている」
「じゃあ、グァリヴァス競技場か。僕は強い人が見たいからね」
「まぁ、今はグランプリをしているしな。凄い盛り上がりだぞ、グァリヴァス競技場。じゃあ、ようこそ、アラスへ」
こうして、僕はアラスへ入っていった。




