17.一人で何とかしようとするケイ
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時は少しだけ遡る。
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目を丸くする。
今目の前にいる男性は猫獣人族。顔も見たことがある。こいつはヒューイエンだ。
ヒューイエンが懐からナイフを取り出す。服の裏側に鞘があり、そこから抜き取ったか。ナイフの刃部分には毒が塗布されており、少しでも触れたら麻痺からのじわじわ毒かな? これは触れちゃいけない系だな。
体をゆらゆらと不規則に揺らす。的を絞らせない。ま、気休めだけどね。
ヒューイエンがナイフを溜めながら、こちらに走ってくる。僕のことを掴んで確実に刺すつもりだ。
僕は彼の左手首を弾きながら、右手首を掴み、一本背負い。投げながら僕自身も飛ぶ。ヒューイエンの体が地図の乗った机を割り、僕の肘を肋骨に押し付ける。
ヒューイエンの体重、机の硬さ、遠心力、地面の硬さ、僕の重さ。全ての相加相乗効果により、ヒューイエンの骨の幾本かが折れた。僕の肘からその感触が伝わってくる。
僕はすぐに体を離して、距離を取った。
警戒は続ける。僕程度の力で軍人を倒せると思っていない。倒せたとしても、あの一撃では無理だ。
魔眼を発動させつつ、耳にも集中する。両隣そして後ろ、天幕を挟んで九人の軍人がいる。足音が全員ない。全員猫獣人族かよ。面倒だな。
ヒューイエンが左手の爪でカリッと地面を描いた。
それが合図だったのか、九人が一斉に天幕を切り裂いて入ってきた。
僕は二つとなった机を立てて二方向を封じ、残りの一方へと走り出す。走り出す途中で拾った駒を投げつけて一瞬の隙を作る。僕はスライディングをして兵達の下を通過した。
未来視で予見していた剣の軌道を避け、わざとその場に止まる。僕の目の前を剣が通過した。
再び走り出し、手当たり次第にそこら辺の物を投げたり倒したりしているが、兵は誰一人として倒れない。それどころか、一糸乱れずビクともしない。
剣とか囲いとかは魔眼で対処できる。それでも、僕にだって限界はあるし、何とかしなければならない。体力も魔力も底が見えてきているのだ。
麻袋を三つ、小さな物を投げつける。先頭にいた猫獣人族が剣で斬った。
よし。心底からのガッツポーズを出したい。
麻袋の中からボワッと粉が舞う。
「グワァ!?」
猫獣人族は鼻がいい。犬や象の獣人族に比べれば弱いが、人間族や魔眼族に比べれば強い。
麻袋の中身はすべて刺激物。目や鼻から水分を撒き散らしている。苦しむように目鼻を押さえて蹲っていた。
それでもダウンしたのは2人だけ。ヒューイエンは健在である。
倒れねぇ。マジかよ。全然倒せねぇんだけど。確実に体力も魔力変換器官も削られて、スタミナは急速に消えていく。
仕方ねぇ。ここ最近ポルクス家に通っていてよかった。
いざ、今こそ使う時! 出でよ、何かよく分からない銃みたいな武器、パクロスコープ! 銃はポルクス家の独占市場だ。正直本物は2,3回しか見たことない。
かなりメタリックな見た目であり、鮮やかな紫色をしている。2本の直線的な部品が発射口を作っており、指に引っ掛ける引き鉄を引けば、圧縮された魔力を撃ち出すことができる。
僕はこれの仕組みを九割理解できていない、かつ、これが試作品であるという点から、引き金を引くとどうなるのか分からない。分からないが仕方ない。
引き鉄の指に力を込める。八人、若干のズレはあれど、射線に入った。入ったよね?
えぇえい! 迷うな! 引け、僕!
カチッと引き金を引く。
視界が真っ白になった。
音が消える。
同時に僕の肩が外れる。皮や肉まで引き千切れそうになったが、理属性魔法で無理矢理繋ぎ止めた。
僕はゴロゴロと後方に転がっていく。
「ゴェ!?」
たまたまそこにあった岩に頭をぶつけ、強制的に止められた。
頭が痛い。くらくらする。
何という高威力だ。この反動だ。かなりの衝撃を与えることだできたことだろう。
僕は頭を押さえながら、上半身を起こし、状況を見る。
目の前にいた兵達だいなくなっていた。いないどころか、融けている。岩も木も、そして人さえも。魔力が通った跡が見える。その脇には猫獣人族の半身が崩れ落ちていた。山、というより戦場に、もっと言えば関係あるところに向けていなくてよかった。
昔の記憶が蘇ってきたが、それを押し返す。今は戦争中。後悔は後だ。
こういう高威力のものは再充填に時間がかかる。カクカクとした空の字がそれを肯定している。
ヒューイエンは無事なようだ。ムクリと起き上がり、こちらに近寄ってきた。
早く仕留めようとしている。この感じバレているな? 連射負荷だってこと見抜かれているな!?
マズイ!
すでに体力は尽きちゃって全然動ける気がしない!




